ゲーム開始から10分。
ついさっきまで近くにひぃがいたのに、見失ってしまった。
現在地は西館の2階。
主に教室のある棟なので、放課後には殆ど人通りがない。
しかしここにはもうひぃはいない。
早く追いつかないと。
ふぅ、と一息つき、引き返そうと振り返った。
すると視線の先にきらりと光るモノが目に入った。
それはデジタル時計だった。
しかも見慣れたひぃのもののようだ。
やっぱりもうひぃはここにはいないのか…と肩を落としたとき。
俺の頭にある考えが浮かんだ。

―この時計の時間をずらしたら?

そう。
ひぃにバレない程度。
3分だけでも早めることができれば?
落としたことに気づいた彼がこれを拾えば?
ひぃは『嘘』の終了時間を知ることになる。
『嘘』の時間にうまく騙されたらこっちのものだ。
俺は手早く時間をずらす。
何度か時間を直しているひぃを見たことがあるので容易いことだった。
ついでに6時に鳴るようにアラームをセットする。

「…これでよし、と」

それを元のように床に置くと、その場を後にした。


この時点で勝敗は決していたのだった。