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逃走開始

白い部屋に、けたたましいサイレンが響いた。
緊急事態発生、と無機質な声が繰り返す。
部屋の中には少年少女が5人。
これほどのサイレンが響く中、彼らは微動だにしなかった。
彼らは忙しなく走り回る研究員たちを見つめていた。
あるものは虫でも見るような冷めた瞳で。
あるものは煮えたぎるような憎しみの瞳で。
しかし研究員たちは彼らの視線には気づかない。
気になど止めていないのだ。
どうせ死ぬ運命のモルモットを見ている暇があるのなら、すぐにサイレンの原因を探らなくてはいけないのだから。
やがて、少年たちを見張る数人を残して研究員たちは消えていった。
彼らは未だに気付いていない。
―この白い部屋に、4人しか居ないことに。

「…ちょろいもんだぜ」

赤い目が笑い、こちらに見向きもしない研究員に中指を立てた。
そう、研究員には部屋には5人いるように見えているのだ。
赤い目の彼によって、そう見せられていた。

「…しかし大胆な計画だよなぁ、単純だけど」
「単純って言うな!素晴らしい作戦だろ!な?」

赤い目の少年の呟きに対して、灰色の髪の少年が食って掛かるが、茶色の髪の少女にうるさいとたしなめられる。
事が起こったのは、そのときだった。
彼らのいる白い部屋の前で、何かが倒れる音と小さな悲鳴が聞こえた。
やがて、堅く閉ざされていた扉が開く。
そこにたっていたのは、今この部屋にいなかったもうひとり。
手には小さな手提げ袋をぶら下げ、口から刃物の柄とおぼしきものが覗いている。
反対の手には見張りを倒すために使ったのであろう、注射器が握られている。

「お待たせしました」

その言葉が、彼らの脱出劇の火蓋を切って落とした。
サイレンは、まだ鳴り響いていた。
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