白い部屋に、けたたましいサイレンが響いた。
緊急事態発生、と無機質な声が繰り返す。
部屋の中には少年少女が5人。
これほどのサイレンが響く中、彼らは微動だにしなかった。
彼らは忙しなく走り回る研究員たちを見つめていた。
あるものは虫でも見るような冷めた瞳で。
あるものは煮えたぎるような憎しみの瞳で。
しかし研究員たちは彼らの視線には気づかない。
気になど止めていないのだ。
どうせ死ぬ運命のモルモットを見ている暇があるのなら、すぐにサイレンの原因を探らなくてはいけないのだから。
やがて、少年たちを見張る数人を残して研究員たちは消えていった。
彼らは未だに気付いていない。
―この白い部屋に、4人しか居ないことに。
「…ちょろいもんだぜ」
赤い目が笑い、こちらに見向きもしない研究員に中指を立てた。
そう、研究員には部屋には5人いるように見えているのだ。
赤い目の彼によって、そう見せられていた。
「…しかし大胆な計画だよなぁ、単純だけど」
「単純って言うな!素晴らしい作戦だろ!な?」
赤い目の少年の呟きに対して、灰色の髪の少年が食って掛かるが、茶色の髪の少女にうるさいとたしなめられる。
事が起こったのは、そのときだった。
彼らのいる白い部屋の前で、何かが倒れる音と小さな悲鳴が聞こえた。
やがて、堅く閉ざされていた扉が開く。
そこにたっていたのは、今この部屋にいなかったもうひとり。
手には小さな手提げ袋をぶら下げ、口から刃物の柄とおぼしきものが覗いている。
反対の手には見張りを倒すために使ったのであろう、注射器が握られている。
「お待たせしました」
その言葉が、彼らの脱出劇の火蓋を切って落とした。
サイレンは、まだ鳴り響いていた。
「彼」はいつも辛そうな顔をしていた。
夢を語るときは特に。
「彼」に私の姿が見えていないことは知っている。
だからこそ、私は常に「彼」の側にいた。
「彼」を取り巻く人間たちは、自分の夢を語りたがる。
彼らのまわりにはたくさんのブーゲンビリアの花が見えた。
「彼」のまわりでは一輪たりとも見たことはない。
それが私にとって当たり前の風景だった。
なにもない沙漠の上。
給水塔。
コウノトリ。
泣き止まない赤ん坊。
これが、「彼」の中に見出だしたすべてであり、私にとって最も美しい景色だった。
夢は秘めるものであり、語る物ではない。
そんな考えをもつ私には、夢を語る者たちの象徴とも言えるブーゲンビリアの花は忌むべきものだった。
あるとき、その景色に変化が見られた。
給水塔の上に、ブーゲンビリアの花が咲いた。
数は少ないけれど、確かにそれは根を張っていた。
それからというもの、「彼」は少しだけど、確実に夢を語る機会を増やしていた。
そのたびに、ブーゲンビリアの花は増えていく。
私の大事な景色が、壊れていく。
君をこんな風にしてしまったのは、なあに?
わかりきった質問。
私は笑った。
「君の悪い夢を、私が全部食べてあげる」
君をこんなに変えてしまったのは、悪い夢のせい。
私がそれを全部、全部食べてあげるから。
そうすれば、君は元通り。
美しい私の沙漠も帰ってくる。
私はブーゲンビリアの花を一株ずつ、丁寧に抜いていく。
引っこ抜かれた花は、やがて花の造形を失い、得体の知れない塊になった。
鮮やかだった色は、見る影もなく黒ずんでいく。
それを私は小さく千切って口に放り込む。
正直、とても美味しくない。
でも、君のためになら。
私は無心に塊を貪り続けた。
ようやく最後の一つを呑み込んでしまうと、そこにいたコウノトリが赤ん坊をくわえて何処かに消えてしまった。
私は「彼」の姿を探す。
「彼」はぼんやりとコウノトリが去っていった方向を見ていた。
その体から、私の大嫌いな花が生えている。
ああ、まだ残ってたの。
私は「彼」の体から最後の一株を引っこ抜いた。
あまりに根が深かったためか、破裂したようにたくさんの根が飛び出した。
「彼」の体に、ぽっかりと大きな穴があいた。
それだけ深くに根付いていたのだろう。
もうブーゲンビリアはひとつもない。
けれど「彼」は時々、輪郭を失うようになってしまった。
私が食らい尽くした、あの塊のような。
これも全部、悪い夢のせい。
あなたがよい夢を見られるように、子守唄を歌うから。
どうか側にいておくれ。
おやすみなさい。
よいゆめを。
沙上の夢喰い少女
Song by ハチ
電気ついたー!
地震のとき、友人とカラオケ店にいたせいでこんなに大きい地震だとおもわなんだ。
考え事しちゃいけないっていうけどそのとおりですのう。
ひとつ前のやつ、ちょいと残酷表現だぜ。
やんでれはある種、一番深い愛情をもってるんだろうなぁ。
変に甘いやつよりずっと人間らしい気がする。
まさにエゴイズムの塊。嫌いじゃないよ。
いやあ、今日もくろさんは通常運転です。
何度も言うが、あたいにデレはない`・ω・´