一個前の小話、あたくしなりに意図を持って考えてみたのですよ。
ほら、口で言いづらいことってあるからね。
言えないけど知ってほしいことってあるからね。
我こそはって言うのがいれば解釈してみればいいんじゃないかな。
ミスリードもあるけどね。
そのうち答えも一応あげてみるつもりかな。
もちろんわかった人にだけわかるようなパス付で。
錆びた街には烏が一羽歩いている。
萎んだ風船をくわえ、金槌を足で抱えている。
金槌は誰かの落とし物だ。
これを持ち主に届けるのが烏の仕事。
スクランブル交差点では死神が憂鬱そうに往来を転がり続けている。
歩道橋は眼鏡を亡くした蜻蛉が飛び回っている。
路地裏では黒猫が月に恋をし、「届かない」と呪いを吐く。
烏が通りかかると「お前さんは月と近くて羨ましいね」と緑色の目で烏を見た。
「そんなことはないさ。お月さんだって地べたを這いずってんだから」烏は言う。
「おいらにゃ毎日仲良く鬼ごっこしてるようにしか見えないよ」
「それは君の気のせいさ」
「気のせいだと言えるくらい一緒にいるんだろうに」
烏は腹が立って言った。
「そんなに自分が嫌ならば諦めればいい」
「諦めがつけば誰も呪いやしないよ」
そう言って猫は緑色の目を大きく見開き、その場にあった錆びた釘を飲み込んだ。
烏はそれを見て、金槌を猫の傍らに置いて飛び立った。
後ろから金槌の音が響くのはきっと気のせいだろう。
気づけば風船は少し膨らんでいた。