私が思春期に入った頃、父は私にお兄ちゃんの部屋にいる際は、扉を開けておけと言った。
私には、何故、父がそんなことを言うのか分からなかった。
そして、父の言いつけは守ったまま、お兄ちゃんとのイチャイチャ時間(これは主人が聞いて、あとから命名したもの)
すると、父がお兄ちゃんを呼び出す。
お兄ちゃんは私に『らいむは気にしなくていいよ。お兄ちゃんが守ってやるからな。おとなしく待っててね』と私の頭を撫で、スッと部屋の扉を閉めて行った。
私は、おとなしく待った。
隣の部屋から父とお兄ちゃんが言い争う声が聞こえる。何を言っているかは分からなかったが、なんとなく私のことなのだと思ってた。
そして言い争う声が消え、お兄ちゃんは扉を開けたまま帰ってくる。
『いい子にしてたな』
また頭を撫でられる。
週末しか、お兄ちゃんの家(祖母と祖父もいる)には行かないので、毎週末それは、繰り広げられた。
なんの喧嘩をしているのだろう?
そう思ってはいたが、あえて聞き耳は立てなかった。そんなことをしてはいけない気がして。
お兄ちゃんは、いつでも優しかった。体のあちこちを撫でてくれた。
とても落ち着いた。安心できた。
唯一の憩いの時間だった。
兄弟喧嘩の内容が私に関することだとは察していたが、お兄ちゃんが何も言わなかったので、私も聞かなかった。
父が何に怒っていたのか知らない。知ろうとも思わない。
私は、私が私でいられる時間を壊されたくなかった。
家に帰れば、そこは地獄。
お兄ちゃんとお兄ちゃんの部屋が私の唯一の救いだったんだよ。
今も忘れない、お兄ちゃんの匂い。
お兄ちゃんのしたことは最低のことだったけれど、私はお兄ちゃんに救われてもいたんだ。だから…お兄ちゃんが望むなら私は…
私の居場所を作ってくれたお兄ちゃんには感謝してる。
お兄ちゃんがいなかったら、私には地獄しかなかったから…