武は、自分の意識を寒川の方に飛ばすようにした

寒川の家が何処にあるか分からないが、とにかく寒川の家を念頭に置く

そして、寒川の父親を想像する

寒川の父親のすぐ側に行くことを想像する



武の想像の身体は、手に長槍を持っていた

その長槍で、想像上の寒川の父親の背中を力いっぱい貫き通す

何十回も繰り返す




寒川の父親は二条に言った

「ちょっと待って下さい

警察沙汰にしたら、貴方も困るんじゃないですか?」

「こういう状態になった以上は仕方ないです」

「退学になるかもしれませんよ、良いんですか?」

「構いません」

「警察は抜きにしましょうよ」

「今すぐ警察に知らせておかないと、僕達の身が危ないですから」

「そんなに俺達が信用できないんですか?」

「ええ、信用してません

僕達は明日そちらに呼び出されてるわけですから」


二条は日頃穏やかな分、戦闘体勢に入ると止まる所を知らない


ろくでもないガキを育てやがって

と、心の中で、普段は使わない乱暴な言葉遣いになる

てめぇ等に何されるか分かったもんじゃねぇのに、この後に及んで呑気にしてられるか




寒川は、電話で話す父親を不安な面持ちで見ていた

警察で余罪を追求されたら、幾つも出て来るからである



見ていて、「アッー!」と驚いた


父親の側に人の顔のような物が、うっすらと浮かんでいる


まさか!

幽霊か?!



目を凝らすと、山野武の顔のように見えた

恐ろしい悪鬼の形相である



武自身は気付いていないが、武は普段から結構目付きが鋭い

本人は努めて無表情にしているつもりだが、実は時々内心の激しさが隠しようもなく目に表われるのだ



山野か?と寒川が思った時に、顔は消えた