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浅き夢見 1



水樹(みずき)は急に具合が悪くなった。

目眩がして来て間もなく、吐き気も加わって来た。

目眩も吐き気も、会社に入って、新しい環境に慣れる間のストレスで起きた「身体化現象」だ。

分かっている。
実際に身体が悪くなった分けではないことを。

目眩も吐き気も強くなってくる。
これではとても仕事が手につかない。
家に帰って横になりたい。
しかし、こんな苦しい状態で駅まで歩けるのか?

第一、まだ入社したてなのに「早退させて欲しい」と言うのは、あまりにもバツが悪い。

それに「使えない奴だ」と思われるだろう。
ああ実際、俺は使えない奴だと思う。
それでも何とかサラリーマンとしてやって行かなければ。

「大丈夫か?真っ青だよ」
係長が声をかけてくれた。
助かったと水樹は安堵した。
自分からは非常に言いづらいが、上司から聞いてくれるなら言える。

水樹はそれで何とか駅まで歩いた。
昼間だから電車は空いていて、座ることが出来た。

やっとのことで家に帰り、ベッドに倒れこんだ。
参ったなと思う。
多分、明日も起き上がれないだろう。
入社したてで、もう早退、病欠か。

2日休んで、会社に行った。
帰りの道で、中年の黒服の男に声をかけられた。
「お兄さん、イケメンですね。
うちで働きませんか?」

聞くと、ホストのスカウトだった。

ホストは無理だろうと水樹は思った。
無口で人見知りだから、到底勤まるとは思えない。

しかし、アルコールを飲めば、結構喋れる時もあるのは分かっている。
どうせ今の会社でも、うだつが上がらないだろうし、思い切ってホストになってみるか。
お金を稼げれば、大学の学費を貯めることも出来そうだ。

「二十歳過ぎてるよね?」黒服の男は、愛想の良い笑顔で聞いた。
この人は感じが良いなと、水樹は思った。
こういう人となら、勤まるかもしれない。

「ええ、二十歳です。」
「それは良い。週1日でも良いから、働いてよ。
その前に体験入店して、合うかどうかも試せるよ」

その時早速、体験入店してみることにした。

駅前の繁華街のビルの二階にある店は、なかなか広くて豪華だった。
ホストとおぼしき若い男が十数人見える。
客と見える女も十人近く。

「そのスーツのままで良いよ」
と黒服の男が言った。
ホストたちはそれぞれ派手な服を着ているが、水樹は体験入店だから、普通の背広ネクタイがお客には新鮮に映ると言う。

ご挨拶と他ブログのお知らせ

このブログを登録して下さった方がいらっしゃるんですね

ありがとうございます


このブログに載せた短編は、私の小説マガ「記憶と追憶の残照」のバックナンバーの一部です

merumo.ne.jp


別の小説を載せたくても結構エロ描写があったりしますから、ちょっとまずい気がします

ブログに載せても大丈夫な部分を選びますかね?



また、他のブログは


夢のコントロールなどに関する真面目なものと、歴史、政治についての私のヨタ話です
「夢の通い路」
mblg.tv


ブログとメールマガジン「美男美女になる方法」が出来た経緯を描いた「六十の刹那の断片」
mblg.tv


よろしくお願いします

21

駅を降り、兄が書いたメモを見ながら文彦は寒川の家に行った


高い塀に囲まれた、庭の広い、古い和風の家だった

門のチャイムを押すと、見るからに人相の悪い男達が数人出て来た

玄関には、さらに十数人の男達がいた


寒川は得意気な表情で文彦を迎える

「上がれ」と、顎で玄関の隣室を示す

和室の上座に、初老の男が座っていた

その後ろには、大きな龍の彫り物が飾られている


「今、倅は外出中だ」

と、男は凄味のある目で文彦を睨む

「まあ座れ」

顎で示され、文彦は男のすぐ前に座った

20人ほどの男達が入って来て、文彦を囲むように座る


「何だお前、こんな暑いのにそんなもの着て」

文彦の、包丁を忍ばせたダウンジャケットを指して言う

「ふん」と不敵に笑って文彦は答えない


「孫が世話になったそうだな」

「こっちはそれ以上に世話になりましたよ」


「お前、二条か?」

祖父の隣りに胡座をかいた寒川が、訝しげに文彦を見る

例の二条にそっくりな奴というのは、こいつか?


「二条和也の弟だ、兄貴が風呂に入ってたから、代わりに来たのさ」

「弟か!何で弟が来るんだ?」

寒川は文彦の顔をまじまじと見つめる


「痺れ切らして来たんだよ

手っ取り早く話つけようぜ」


「いい度胸だな小僧」

と、寒川の祖父が文彦に脅しの微笑を投げる

「お前の兄貴は、何でうちの孫に怪我させてくれたんだ?

返答次第じゃ、生きて帰さないぞ」


文彦のダウンジャケットの下は、冷汗が出ている

文彦も、幾分かは死ぬ覚悟で来た


文彦は言った

「僕を殺すなら殺せ

でも僕が死ぬ時は、必ず祖父さんを地獄に連れて行くつもりだ

祖父さんを殺すか、それともここにいる子分を二、三人殺すか、どっちにしろ殺すから、その覚悟でやってくれ」

文彦の目が、冷たい鋼のような光を放つ

一瞬にして文彦の全身に殺気が漂よった


こいつはただ者ではない、と寒川の祖父は感じた

「了解だ

まずは、孫を殴った理由を聞かせてもらおう」


文彦は、兄から聞いた話をした


話が進むうちに、寒川の祖父の顔が険しくなって来た

恐喝の話をしかけた所で、寒川の祖父はいきなり隣りに座っていた孫を殴りつけた


「このろくでなしめ!」

と、怒鳴りつける

猛烈な勢いで、寒川の顔にパンチが炸裂する


寒川は畳に倒れて悶絶した



「申し訳なかった」

と、寒川の祖父は文彦に頭を下げた





○○○来て
身を妨ぐる
悪念(のろひ)をば
今打ち返す
元のあるじに



※※※



この短編は、これで終りです

最後まで読んで下さってありがとうございました


こういう悪い奴等は、やはり書いてて良い気分はしなかったです

寒川達悪党に対して、バッドエンドにするかハッピーエンドにするか、途中で随分迷いました

が、寒川達にも良い終り方に出来たので、私としては満足しました


結局、女の子はほとんど登場させることができませんでした

女の子を書きたい気持ちも少しはあったのですが、今回はどうも難しかったです


武、二条、文彦の三人は、私の好きなキャラクターなので、そのうちまた登場させるかもしれません

20

二条は寒川に電話して、自分達は被害届けを出さない旨を伝える

「でも、そっちが出したいなら出して構わないぜ」

あくまで逃げではないことを示した

「親父に言っとく」

と、寒川は悔しそうに言って電話を切った




二条の入浴中、二条の携帯が鳴った

弟の文彦が電話を見る

文彦は高校に上がったばかりなので、未だ携帯を持っていず、兄が使わない時に借りている

画面には、「寒川」と名前が出ていた


「二条、うちに来い」

野卑な声がした


ああ、こういう奴か、と文彦は思う


「何の用だ?」

文彦は兄のふりをして話す

兄弟の場合、特に携帯では声がよく似るので、寒川は弟と話していることに気付かない


「怖じ気付いたんじゃないなら来いよ

話つけようぜ」



ここに至って文彦の怒りは頂点に達した

「よし、今すぐ行ってやる」

「何?今だ?」

寒川は驚いたようだった

「約束は明日だぞ」

「悠長なこと言ってられるか貴様

お前の親父、今いるよな」

「いねぇよ」

「いないなら帰らせろ、これから行くから」


「よし、いいぜ、今から来い、クビ洗って来るんだな」

寒川は、脅しのために笑ってみせた



兄に告げて、もし止められたら嫌なので、文彦は黙って家を出た

父は山伏修行で不在、母はリビングでクラシックを聞いていたから、文彦が台所の包丁を取るのを見られることはなかった

包丁を、背中に忍ばせる

晩春の夜の空気は、肌に暖かかった




三日月の
月かと見れば
○○の虫
この虫殺せ
十五夜の月

19

通話中の二条の携帯に、武から着信が入った

「また電話します」

と二条は寒川の父親に言って、武と話す


「何?」

「未だ警察に言ってない?」

「うん」

「良かった、警察に言わないで大丈夫だよ」

「何で分かる?」

「勘だけど、寒川達は僕達に何もできないよ」

「勘?」


勘なんか信じられるのか?

疑うものの、二条の祖父は神社の宮司である

宮司の三男である二条の父親は、神道系の山伏だ

(山伏には、仏教をメインとしている者、神道をメインにしている者、半々の者など色々いる)

二条の父は会社経営をしながら時々休みを取り、旅行鞄に山伏装束を入れて山に修行に行く


二条が武のように、時々修験や、両部神道(神道を取り入れた密教)の呪歌を唱えるのは、この父の影響である



「なるべくなら、警察の厄介にはなりたくないよね」

二条は言った

「だよね、いくら未成年だってね

下手したら退学になるかもしれないし

まあ、それはないだろうけどさ」


武は二条に、幽体離脱したかもしれないことを話した

「本当に出来たかどうか分からないけど、寒川の家は怨霊がいっぱいって感じがしたんだ

悪いことばっかりして来たから、相当恨み買ってると思うんだよね」

「ああ、生きてる人間達の恨みの念が、寒川達とは無関係の死霊を沢山呼び込んだのかもしれないね」

二条にも、そういう現象は何となく想像がつく

「僕も出来ることなら警察沙汰にしたくないよ」

「だろ?だから言わないで」

「分かった」
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