二条は道場から帰る道すがら考えた

親には言いたくない

自分は武術という武器を振り回した形になるからだ

それは寒川達も同じで、ましてこの弾きがねになったのは暴行と恐喝をした寒川達だ

だが、それなら何故、恐喝に発展するまでおとなしく殴らせていたのか?と親に詰問されてしまうだろうからだ

寒川達を頭に乗らせたのは、二条の無抵抗だったと言っても過言ではないと、責められるだろう

また、無抵抗の故に、級友の武をも、弟の文彦をも巻き添えにしてしまった



道で武に報告した後、二条は寒川に電話した

寒川は暴力団の父親が後についているので、怪我していても居丈高である

「今さら怖くなって泣き入れるつもりか?」


「いや」

と、二条は答えた

「お前の親父さんが、僕や山野とどんな話し合いをしたいのか知らないけど」

「怖じ気付いてやがる」

寒川はせせら笑う

「てめぇも山野も、なるべく早く引越しと転校した方が良いぞ

グズグズしてる暇はないぞ、俺達が家を調べて乗り込むからな

家族全員半殺しにされたくなかったら、尻尾巻いて逃げくされ」

寒川は勝ち誇って笑った


腹は立つが、二条は努めて冷静に告げた

「お前と東山、横田、西田、南、北谷の六人を、暴力と恐喝、脅迫で警察に被害届けを出すつもりだ」

「何?」

寒川には意外だったらしい

声の調子が変わる

「それなら俺達も、傷害で被害届け出すぞ」


「出せよ」

「何だと?」

「僕達もお前達も、同じく警察に逮捕されようじゃないか

双方とも逮捕されて、取り調べを受けるんだ

お互い様だな

先にやって来たのは、お前達だ、それを忘れてないよな?」

「傷害事件にしたのはてめぇ等だぞ」

「その前に暴行されてたのは、僕と広沢なんだけどな

ここまで来たからには、もう最後まで徹底的にやろうぜ」


寒川は黙り込んだ

しばらくして言った

「親父に代わるよ」

急に口調が子供っぽくなる


少しして電話に出たのは、ふてぶてしい声の中年男だった


「うちの倅が、あんたに大分世話になったそうだな」

男にしては甲高い声に、ヒステリックな性格がにじみ出ていた

やはりろくなオヤジではないな、と声を聞いて二条は思う

暴力団の中でも完全に小物の部類だ、と

しかし、小物の方が物の道理が分からないだけに、ある面恐ろしい
「僕の方も大分お世話になりました」

二条の胸に怒りが込み上げて来る

子供を持つ資格もない屑め

こいつとこいつの倅のために、今まで何人が泣かされて来たのだろう?



「今すぐ、お宅の息子さんに暴行と恐喝をされたと言って、警察に被害届けを出します

そちらも傷害の被害届けを出して下さい

どっちがより悪かったか、警察に全部調べてもらいましょう」


電話の向こうに沈黙があった





一方、武はこの日は勉強もせず風呂にも入らず、ただずっと机に俯していた

自分は二条を助けたのだから、親に知られても褒められこそすれ、叱られることはない

だが、相手はならず者達である

警察の目を掻い潜って、自分達に何をして来るか分からない

呪いをかけていても、自分は行者ではなく素人である

慣れない禁厭(きんえん・まじない)をするよりは、手っ取り早く念力を使った方が良いかもしれないと思った


机に俯す武の肉体から、霊体が抜け出る様を強くイメージする

つまり生き霊である




生き霊と
言ふも我らは
しら○○○
放つ時には
程なかりけり



紅(くれない)に
染めてそのやに
隠すとも
色ある花は
隠されもせじ