武の視界に、神棚が見えて来た

両端に供えられた榊の葉に、毛虫が沢山ついている


「ふうん」

と、武は心の中で言った

「ヤクザのくせに神棚なんかあるんだ

悪いことばっかりしてて、何が信仰だよ」


そう言えば、漫画で見たことがある

外出するヤクザの夫の肩に、女房が火打ち石をカチカチカチと打つ場面を


形だけつけてて、どうなるものでもあるまいに

さんざん悪いことしてても、験を担いでれば良いと軽く考えてるのか?



神棚を見ていた武の背中が、急に震えた

急激に寒気がして来たのだ


不気味な雰囲気が立ち込め始める

名状しがたい恐怖に捕われて来た




「身体に帰ろう」と、武は思う

しかし、なかなか上手くいかなかった



自分は今、実際に幽体離脱しているのだろうか?

それとも、しているつもりだけなのだろうか?

分からない

今までに何度か幽体離脱の練習をしたが、こんなに鮮明に見えたことはなかった

今見えているものも、自分の単なる空想、あるいは幻覚かもしれないのだ



だが、怖い

何だか分からないが、非常に気持ちが悪い

ああ、怖い




不気味な気配の中から、一人の少年が姿を現した


とても美しいその顔は、同時に恐ろしくもあった


武は何故か、その少年が神霊だと直感した

しかも単なる神霊ではない

自分の住む地域の氏神だと感得した



「去れ!」

と、氏神は一言、武に言った



武の意識は、机に俯す肉体に戻っていた




走り人
その行く先は
真の闇
あとに戻れよ
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