『史さんの小銃って三十年式じゃないんだな』
『ああ、モシン・ナガンだ。日露戦争で鹵獲した奴を使ってる』
『ろかく……信じられないよね〜ッ!ほんと。そこら辺にいる普通のカワイ子ちゃんに見えるのに〜!』
『そうかな…軍から離れてからちょっと女性らしくなったかな?……どうだ?』
『……元からそんなに男みたいじゃない』
『そうかー!!フフフ』
『……二人は仲良しだな!!』
『あれ?どうした?こんな時間に』
『ちょっと忘れ物しちゃって……裏鍵あいてますか?』
『うーん、今事務所で裏の奴ら打ち合わせやってるからなー、俺が行くわっ!』
『すみませんっ!お忙しい中……』
『……あった!!』
『なに忘れたの?』
『あはは……家の鍵が入ったポーチです……』
『家入れないじゃん!』
『…家の前で気づいたんですよ〜…ほんとバカですよね』
『…………身体は大丈夫?……痛くないか?』
『〜〜!!だっ、大丈夫ですっ…!!』
『そっか』
『……ん……やっぱり少し痛いかも……』
『!!……優しく出来なくてごめん』
『〜〜ちょっとだけ、です!……ちゅーしてくれたら治ります』
『関係ないじゃん!!』
『今日みんな帰るの早くない?』
『ほんとー!まだ12時から5分しか経ってないし!』
『ほんとですねー!』
ほんとは何でみんな早いか知ってる
今日向こうの部門は先月辞めた人の送別会が街に在るホテルでやることになっている
…向こうに異動した私の元上司から聞いたから
夜に電話で
毎日部屋にふたりきりだったのがもう本当に
朝しかすれ違わないけれど
肩がぶつかりそうになって
ひとりドキドキしている私
『何調べてるの』
『現実的にクローン技術はどこまで進んでいるのかです』
『クローン人間がいると思ってる?』
『うーん…存在しててもわかりませんからね、見た目的にとか』
『まあ夢はあるよねー。iPS細胞なりES細胞なりにおける医学の発展はすごいよね…』
『私はいると思いますよ』
『法で禁じられていても?』
『法を犯してまでも自分の技術を体現したい抑えきれない科学者の性ですよ』
『うーん…そういうものかな?』
『きっと私達の中に紛れ込んで普通に生活していると思いますよ…』
『…もうそろそろ帰った方がいいんじゃない?終電無くなるよ』
『すみません!明日の公判資料、もう少しで出来そう……あの、今日泊まっていっても良いですか?もちろんサビ残で!!』
『はは、徹夜するのかい?』
『はい!絶対明日は無罪取りに行きますから…!』
『了解、あんまり無理しすぎんなよ!』
『はい!』
『…おーい、終わった?こんな所で寝てると風邪引くぞ』
『う〜ん…ムニャムニャ…』
『…全く…こんな所で無防備に寝て』
『終わったんなら車で送るぞ?』
『………っ、ん…ふにゃ…はっ!!わわわたし寝てました??!』
『うん、爆睡してたよ!ていうか涎垂れてるし』
『えっ?!やだ!ごめんなさいっ!!』
『終わった?』
『終わりました!!すみません!いつの間にか寝ちゃってた…』
『帰るか?送ってくぞ』
『わ、大丈夫です!タクシーで帰り…『いいから送るから支度して』
『す、すみません…』
『ちゃんとベッドで寝ないと明日に響くぞ…っていうか今日だけど』
『すみません、ありがとうございます!』