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16

二条は道場から帰る道すがら考えた

親には言いたくない

自分は武術という武器を振り回した形になるからだ

それは寒川達も同じで、ましてこの弾きがねになったのは暴行と恐喝をした寒川達だ

だが、それなら何故、恐喝に発展するまでおとなしく殴らせていたのか?と親に詰問されてしまうだろうからだ

寒川達を頭に乗らせたのは、二条の無抵抗だったと言っても過言ではないと、責められるだろう

また、無抵抗の故に、級友の武をも、弟の文彦をも巻き添えにしてしまった



道で武に報告した後、二条は寒川に電話した

寒川は暴力団の父親が後についているので、怪我していても居丈高である

「今さら怖くなって泣き入れるつもりか?」


「いや」

と、二条は答えた

「お前の親父さんが、僕や山野とどんな話し合いをしたいのか知らないけど」

「怖じ気付いてやがる」

寒川はせせら笑う

「てめぇも山野も、なるべく早く引越しと転校した方が良いぞ

グズグズしてる暇はないぞ、俺達が家を調べて乗り込むからな

家族全員半殺しにされたくなかったら、尻尾巻いて逃げくされ」

寒川は勝ち誇って笑った


腹は立つが、二条は努めて冷静に告げた

「お前と東山、横田、西田、南、北谷の六人を、暴力と恐喝、脅迫で警察に被害届けを出すつもりだ」

「何?」

寒川には意外だったらしい

声の調子が変わる

「それなら俺達も、傷害で被害届け出すぞ」


「出せよ」

「何だと?」

「僕達もお前達も、同じく警察に逮捕されようじゃないか

双方とも逮捕されて、取り調べを受けるんだ

お互い様だな

先にやって来たのは、お前達だ、それを忘れてないよな?」

「傷害事件にしたのはてめぇ等だぞ」

「その前に暴行されてたのは、僕と広沢なんだけどな

ここまで来たからには、もう最後まで徹底的にやろうぜ」


寒川は黙り込んだ

しばらくして言った

「親父に代わるよ」

急に口調が子供っぽくなる


少しして電話に出たのは、ふてぶてしい声の中年男だった


「うちの倅が、あんたに大分世話になったそうだな」

男にしては甲高い声に、ヒステリックな性格がにじみ出ていた

やはりろくなオヤジではないな、と声を聞いて二条は思う

暴力団の中でも完全に小物の部類だ、と

しかし、小物の方が物の道理が分からないだけに、ある面恐ろしい
「僕の方も大分お世話になりました」

二条の胸に怒りが込み上げて来る

子供を持つ資格もない屑め

こいつとこいつの倅のために、今まで何人が泣かされて来たのだろう?



「今すぐ、お宅の息子さんに暴行と恐喝をされたと言って、警察に被害届けを出します

そちらも傷害の被害届けを出して下さい

どっちがより悪かったか、警察に全部調べてもらいましょう」


電話の向こうに沈黙があった





一方、武はこの日は勉強もせず風呂にも入らず、ただずっと机に俯していた

自分は二条を助けたのだから、親に知られても褒められこそすれ、叱られることはない

だが、相手はならず者達である

警察の目を掻い潜って、自分達に何をして来るか分からない

呪いをかけていても、自分は行者ではなく素人である

慣れない禁厭(きんえん・まじない)をするよりは、手っ取り早く念力を使った方が良いかもしれないと思った


机に俯す武の肉体から、霊体が抜け出る様を強くイメージする

つまり生き霊である




生き霊と
言ふも我らは
しら○○○
放つ時には
程なかりけり



紅(くれない)に
染めてそのやに
隠すとも
色ある花は
隠されもせじ

15 呪詛の失敗

武術指導が終り、夜の勤行と作務を終えて自由時間になると、妙恵はいそいそと本堂に向かった


生まれて初めて呪詛をするのだ

頑張らなくては

何法でやろうかな?

ありふれたスタンダードでするか、それともマニアックに捻りを利かせるか



廊下を歩いている妙恵を見て、師の僧は異なものを感じた

声をかけようかと一瞬思ったが、本人に任せることにした

妙恵もそこまでバカでもあるまい




廊下を歩いていて、妙恵はつるりと滑りそうになった

危うく転んで、後頭部を打つところだった


「ああ、危ない危ない」

心の中で呟く



本堂に着いた時には、何法で呪詛をするか決っていた

呪詛用の三角壇と密教法具を取り出す



三角壇の前に座ろうとした時に、密教法具のひとつを三角壇の上に落としてしまった

鈍い音が、広い無人の本堂に響く


「あれ?」

妙恵は奇妙なものを感じた

法具を拾おうとした手が三角壇に当たる

「痛っ!」


さすがの妙恵も、ここに至って気付いた



ああ、この呪詛は駄目か…

呪詛用の本尊の像
(妙恵がどの仏尊を選んだかは、作者(私)には分かりません)
を見ると、その顔は別の方向を向いているように見えた


「わかりました、やめます」

妙恵は頭を下げる

理由は何なのか理解できないが、この呪詛は成功しないことが分かったのだ

14:発行者(私)の顔が悪くなってしまったこと

発行者です

苛め(しつこいようですが、生徒間暴力です)をするようなクズ共を描写していたせいか、最近急速に作者(私)の人相が落ちて来てしまいました

作者(私)は、主人公の武のように物好きな訓練をしていないから、自分の顔を自由に演出する技術がありません

あまり人相が悪いと日常生活に支障をきたすので、この辺は詳しく描写せず、粗筋だけを書きます


恐喝をして来た寒川、東山、横田の三人を武と二条の二人で叩きのめしたら、寒川が暴力団の父親に言いつけ、二人は寒川の家に呼び出されることになりました


※※※



二条は武術の道場に行った

が、明日下校後、暴力団の寒川の家に行くことになっているので稽古をしていても気分が重い

悪いのは寒川達だが、そんなクズを育てた親も親だ

話して通じる相手かどうか分からない

武が、以前から寒川達に呪いをかけていたと言ったから、大丈夫だとは思うが、まさか親が暴力団とは知らなかった

親までは呪っていなかったと言う

今夜は、睡眠時間を極力削って精魂込めて呪うらしいが、果たして素人の武にどこまでできるだろうか?



今夜の武術指導は、修行僧の妙恵(みょうえ・31歳)が受け持っていた

妙恵は思慮が浅いが、美しく苦味走った顔つきをしているから、中身と違って一見重厚な人物に見える

この寺院がやたらに美男が多いのは、一体どうしたわけだろう?

見る僧侶見る僧侶、未だ僧侶でない見習いの修行者達でさえ、ほとんどが美しいと言って良いほどだ



妙恵は、一応は研ぎ澄まされた修行者なので、二条の様子がおかしいことに気付いた


「どうしたの?動きが鈍いよ」

弟子達の間をぬって二条に近寄り、声をかける


どちらかと言えば精神年齢の高くない妙恵だが、二条から見れば充分に大人である

道場の隅に行って、ことの次第を話した



「何と!」

妙恵は内心の喜びを隠して重々しく言う

「警察に言いなさい」

「警察が動いてくれるんでしょうか?」

「一応言っておくべきだよ」

「はい」

「呪詛は私に任せて」


これが言いたかった


呪詛をした経験がないので、してみたかったのだ

「はい」

「明日は私が一緒に行こうか?」

「行って下さいますか?」

「ほっとけないからね」

攻撃的な性格の妙恵は、笑いが顔に出ないように必死に堪える

13:二条が醜男になったこと

二条の話を聞いてから、武はなるべく二条と一緒にいるようにした

本当は目立ちたくないが、万一二条が治療費と慰謝料を請求されたたら、正当防衛の証人になることを寒川達に示すためだ


「気で打撃を跳ね返せるとは」

下校時、歩きながら武は小さな声で二条に言う

「なかなか出来ることじゃないよね

君、天才?」

「そうかもしれない」

二条は悪びれずに答える

武術をやっていても、長年死ぬ気で打ち込まなければ、相手のパンチを気で跳ね返すことは不可能だ

二条が、わずか高校二年の若輩の身でここまでになれたのは、彼が不世出の天才だからであろう


「まあ、僕も毎回跳ね返せるわけじゃないよ

時々はまともに食らって痛い思いするよ」

「そうか」

武はひどく感心する

武にはとても無理だ



「それにもう腹が立って仕方ないし」

いくら練習になるとはいえ、ああいうクズ共の悪想念を受け続けるのは胸糞が悪い


最近自分の顔が汚くなったのはあいつ等のせいだ、とまでは口には出さない

顔が悪くなったのは、そういう人間達を相手にしている自分の責任だからだ



貴子は前から二条に盛んに色目を使っていたが、最近は二条が美男なのか醜男なのか微妙になって来たので近寄らない

二条としては、有り難いやら寂しいやら複雑な心境である


気を貯めておくには、セックスは禁物だ

セックスなどしたら、気が漏れてしまうからだ

マスターベーションもしないように頑張っているのに、女と交わって、気を無駄に排出するなんてもったいない


しかし女に見向きもされなくなると、やはり悲しい

その辺り、武は徹底しているから羨ましいと思う

武は今は美しい

二条に好かれたいので、武は二条と二人でいる時は、自分に出来得る限りの精一杯の美しさと感じ良さを顔に表現している

普段は、特徴のない捕らえどころのない顔を演出している

長年の鏡の前での訓練の成果である




「北谷をやったのは、君の弟か」

「うん、いつまでも調子に乗らせてるなって怒って来たんだよ」

一歳下の弟の文彦(ふみひこ)は、二条と違って直情径行である

兄の行動を見兼ねて、下校後に兄の学校に来た



北谷は文彦に金的を入れられて、股間が何倍にも腫れ上がり、うなって寝ていた

一週間経ち、ようやく腫れが引いて来た


北谷はやっと動けるようになったので、寒川に電話する

「二条にそっくりな奴にやられたよ」

「何だと?」

寒川は耳を疑う


あの日、六人で二条を恐喝するつもりだった

しかし、いつの間にか北谷一人がいなくなっていた

北谷が倒れていたと聞いたのは、翌日だった


「南と西田も学校休んでるって?」

「ああ、そいつにやられたのかな?」

「かもしれないな」

「二条にそっくりだって?」

「ドッペルゲンガーかな?」

「それはないだろ」

12:人相が落ちて醜男になった

二条は鏡の前で溜め息をつく

最近の自分は何て不細工なんだと、悲しくなる

「まったく何て見苦しいブ男だい」




今日は級友に、「この世の物と思えないほど綺麗な顔」と言われた

皮肉か?と疑う

皮肉でないなら、感覚が斜め上なのか?


確かに、自分でも非常に美しいと思って、見とれる時もないわけでもない


しかし、最近の自分は美しさの片鱗もないどころか、醜悪な顔としか言い様がない




夜に、近所の寺院に武術の稽古に行った

だいたい週二回のペースで通っている


教える師匠は、日によって違う

今夜の師匠は、現見(げんけん)という20代半ばの有髪の僧侶見習いである

素晴らしい美青年だが、顔や声の優しさと裏腹に、やたらに厳しいところがある

打ち合いでは、物凄く接近させる

「接近して打ち合わなきゃ強くなれないからね」

と、にこやかに笑って言う

「離れて打ち合ったって駄目よ

それじゃ実践で役に立たないよ」



目茶苦茶に打ち合ったおかげで、かなり強くなれたと思う

無駄に痛い目にあって来たわけではない、と納得出来る




「二条君」

稽古が終わった後、現見が呼んだ

「この頃、何か異なことでもある?」


「え?何ででしょうか?」

「ちょっと君、人相が落ちてるねぇ」


ああ、やっぱり…



「何か良からぬこと考えてない?」

「分かりますか?」

「まあねぇ、それが何だかは分からないけどねぇ」



顔が汚くなったのは、寒川と手下達を、これからジワジワ追い詰めようと目論んでいるせいか

何故か自分の場合、悪い想念は、ダイレクトに顔に出るんだな、と嫌でも思い知らされる



二条は、寒川と手下達に級友の広沢が苛め(生徒間暴力である)られていたのを助けたら、今度は矛先が自分に向けられたことを話した

それでヘナチョコなふりをして、彼等に好き勝手に打たせていた

何故なら、この寺院の道場で、強い人間達と打ち合うよりよほど楽に武術の稽古ができるからである

彼等は、気というものを分かっていないので、パンチに気が入っていない

簡単に跳ね返せる

意識体が肉体と同じ動作を取っているから、自分の何処を狙っているかも察知できるので、丁度格好な練習になる

二条がおとなしく殴られていた理由は、ここにあった

反撃を始めたのは、寒川達が金を要求するようになったからだ




「ジワジワと追い詰めるのは良くないねぇ」

と現見が言った

「悪人はいずれ報いを受けるけど

でも悪人を裁くのは、君じゃないから」


二条も、何となく理解できる

「どうしたら良いでしょうか?」

「ジワジワ追い詰めるんじゃなくて、早くきちんと話をつけなさい」

「話して分かる相手でしょうか?」

「ぶちのめすのは、話が決裂してからよ」

こともなげに現見は笑う
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