18歳、おめでと。
無理やり、関係を変えたのはあたしだけど、きみのこと、まだすきみたいです。
でも、それはもうすぐ恋ではなくなると思います。
きみもきっと、そうだよね。
きみとは友達になりたかったな。
でも、なれないね。
友達なんて、近い存在になったら、またあたしは、きみのことすきになるから。
きみもそうだったらいい、なんて少しだけ、思っています。
きみの香りにどきどきします。
髪を切ったね、かっこいいよって言いたかったけど、言えなかった。
だって、どきどきして、顔見れなかったから。
あたしね、しょーくんの為にかわいい女になるよ。
きみがすきになったことを後悔しないような女になるよ。
しょーくんの世界一幸せな女になるよ。
だからね、きみもきみの世界一幸せな女の子を大切にしてあげてね。
本当はね、欲張り言ったら、もう一度、抱き締めて欲しかった。
もう一度、キスをしてほしかった。
だいすきだって、あたし好みの優しい声で言ってほしかった。
でも、伝えたから。
伝えられずに泣いてた弱いあたしは、もういないから。
ちゃんと、好きだったって言えたから。
もう、きみを傷つけないから。
この手紙はきみに届けないよ。
きみと、出会えて幸せでした。
少年が髪切ってた。
かっこよかった。なんかそわそわしてしまって、変に思われたかなー。
なんとなく、避けたかも。お互いに。
こないだメアド貰った時、少年に見られたのがすごい嫌だったのは裏切りかな。
でも、見られたくなかった。
たぶん、あたしは、好きだった人と友達になれないみたいだ。
あたしのことまだ好き?もう嫌い?ってそればかり聞きたくて仕方ない。
それは単なる口実でただ、くだらない話をしたいだけなのに。
白黒はっきりさせたがるくせに、曖昧な関係を欲しがる。
なんて身勝手な人間、
終わった恋だって突っぱねたのはあたしだから、泣いてちゃいけない。
傷つけて泣かせたのはあたし。
だから、あたしは、何も言わない。
ただ、彼の香りにどきどきするだけ。
俺は肌寒い十月、二年近く好きだった人に振られた。
そしていまなお、好きな人が愛する人は彼女と同じ女だった。
俺が好きな人は、バイセクシュアルだった。
「お疲れ様です…って、何してんですか飯島くん」
ふらっと店に寄ったら、今一番会いたくない人が来た。
彼女は俺の顔を見るなり、無表情だった顔に柔らかな笑みを浮かべる。
その唇を見ると、告白した時、キスをしたんだよなあ、と思い出す。
柔らかくて、煙草の味がした。あと、ボディソープの匂い。
「特に…何もしてないですよ」
ずいぶん前のことなのにまだ忘れていない自分に呆れる。
むしろ忘れられる方がすごいかもしれないけれど。
「そっか。あ、差し入れ持って来たんだけど、飯島くんも食べない?」
彼女は何事もなかったかのように笑う。
俺を見つめて、穏やかに。
「実習で作ったら、やたらハマってねー」
「作りすぎでしょ…何か気持ち悪…」
机に並んだチョコレートシフォンケーキを頬張りながら、ため息をつく。
そんな傍ら、女らしくなったなあとも思った。
以前の彼女なら、死んでもしない。
「彼氏にも言われたー」
一瞬、ケーキが喉に詰まった。
俺はそれを誤魔化すように自分のミルクティーを飲んだ。
甘さが飽和して、無味になる。
彼女はただ、笑っている。
「なんかさ、時々、飯島くんがもうあたしのこと恋愛対象に見てないのか気になるんだよね」
「ぶふっ」
口に含んだミルクティーを吹き出しかける。
それをかろうじて阻止したら、気管に詰まって咳き込んだ。
げほげほとむせていると、彼女はくすくす笑いながら俺の背を撫でる。
その表情はどことなくあの日の彼女に似ていて、ひどくぞくりとした。
「大丈夫ー?服とかついてない?」
「‥だい、じょぶです」
何が言いたいんだろう。何がしたいんだろう。
彼女の意図することが解らない。
彼女はひどく穏やかに笑んでおり、もう二年前の子供っぽい笑顔なんて忘れたようにも思えた。
きっと、あの笑顔は彼女を手に入れたあのひとにしか見せないんだろう。
「…まあ、聞いてもきっと飯島くんは言わないよね」
「…うん、言わない…」
そう言って、笑い続ける彼女はなんだかとても寂しそうだった。
けれど、あの日、決めたから。
どうか、幸せに、笑ってほしい。
「でも、嫌いじゃ、ないから」
ぽつり、呟く。彼女はそんな答えを解っていたのだろう。
「ありがとう、」
俺の顔を見ずに、ほんの少しだけせつなく笑ってみせた。
(幸せになるには、あなたが必要だった。
けれど、もうそんな言葉、手遅れだって解っている。)