私がもっと早くに気付いていれば…!
いや、薄々気付いてはいたのに。
もっと早く行動に移していたなら…!
「っ、何処へ行くの?」
小さな相棒が、腕に抱き付く。
『あの建物へ』
巨大化した3mの私は、相棒を抱え走り抜ける。
『此処で、待っていて』
目指す建物から少し離れた場所に、相棒を下ろす。
「…本当にいいの?」
目指している建物は、私達が通っていた軍学校だ。
『あぁ。今から私は罪を犯す。それでも君は私と来るの?』
彼女は悲しそうな顔おして、大きく頷いた。
「うん」
『…じゃぁ、待ってて』
そう言い残し、駆け出す。
手には巨大な槍を持って、汚れた母校へと行く。
建物に入り、目当ての相手を見つけた。
「お前は…!聞こえるか、A134が反逆を起こした、直ちにこちらに…」
ブシュッ。
「ぐわぁあああっ!」
こいつが居なければ、こいつさえ居なければあの事件は起きなかった。
誰かが死ぬ事も無かったのに。
『くし刺し。痛いですよ、これからもっと』
「っは、何を…ぐふっ」
こいつの無線で集まって来る奴らの大半は、裏の関係者だ。
「…A134を止めろ!最悪殺しても構わない!」
ほら、どいつもこいつも自分の事ばかりで、私達の命なんてものはまるでゴミの様に。
ブシュッ。
「がはっ…」
ブシュッ。
「あ゛ぁぁあ!」
全般で6人をくし刺しにしてやった。
『…チッ、まさか同期を応戦させるとは…』
見知った顔が向かって来る。
槍を放り出して逃げてもいいが、普通の人間にこの槍は重すぎる。
『おい、抜け!槍を引き抜くから押さえろ!』
初めて見る巨体に恐怖したのか、唖然としていた。
『こいつらを死なせたいんだったら、このまま槍ごと放置するが?』
戸惑っていた一人が押さえにかかる。
『押さえろ!槍を引き抜く!』
応戦に来たはずの同期達は、必死でこいつらを助けようとする。
『本当にバカだよ。こいつらは自分さえよければいいのに』
ガッ。
一気に引き抜き、来た道を引き返す。
『救急車を呼べ!』
「…!!救急車、救急車だ!」
哀れで仕方無かった。
「ぉ、お前か?!」
本当の敵とは戦った事などない者を応戦させるなんて。
『退け』
何を考えているのか。
「…ひぃいっ」
もとの大きさに戻った私は、急ぎ足で出入り口へ向かう。
そこには二つの人影があった。
『教官…』
思わず涙が零れた。
この教官は何も知らないんだ。
裏で何が起きていて、私達が実験台にされ、日々死んでいく事を。
だから彼らは私達に優しかった。
『すみませんでした!』
深々と頭を下げる。
この人達になら、殺されても良いと思った。
「顔を上げろ!」
コツンといつもは痛いはずのバットが、緩く頭に当たった。
『教官?』
わしゃわしゃと、髪を撫でられた。
『私は罪を犯した、それなのにどうして…』
「我々は裏の事を知っている」
「君の危機感もよく分かるのだ」
『え?』
教官達はにっこり微笑む。
「謝るのはこちらの方だ」
「知っていながら、何をする事も出来ない。辞める事すら許されないのだ」
知っているからこそ、優しくしてくれた?
『…っ、教官…』
背を押される。
「早く行きなさい」
『教官、今までお世話になりました!…っ、ありがとう、ございました!』
最後まで教官は笑ってくれていた。
「…泣いてるの?」
相棒が寄り添う。
『泣いてない…』
さぁこれから何処へ行こうか。
罪を背負い、何処までも逃げ続けよう。
To be continued.