「あ、懐かしい。」
「何が?」
「これ…まぁ、色々あったから。」
僕はそんな曖昧な返事をした。それが何かはっきり言わなかったのは、言ってしまったら君は傷付くだろうと思ったからだ。うん、はっきり言わなくても傷付いているみたいだけど。実を言えば、懐かしいと感じたのは匂いのせいだった。もっと詳しく言えば古本の匂い。色々と言うのは、過去に好きだった人がよく読んでいたな、その時の匂いがまだ染み付いてるんだ、ということだった。隣でつまらなさそうにしているこの人はいわゆる彼女ってやつ。色々って何とかその本って何とか聞いてくる。干渉されるのはあんまり好きじゃない。気遣って黙ってたのに。女ってのは厄介だ。こうして話さないと気になって聞くくせに、話せば気を悪くして怒る。男って損だ。
「前に友達がよく読んでた本だから懐かしいって言ったんだよ。部屋にあるのは返しそびれただけ。」
いぶかしげに僕を見たあと、彼女は確信を持ってこう言い放った。
「嘘。女でしょ。白状しなさい。」
僕は静かに手を上げた。隠したところで無駄な足掻きだから、いっそ洗いざらい喋った方が楽かなとも思った。
「昔好きだった人に借りたんです。別に付き合ってもないし、告白すらしてません。」
よろしい、と彼女は意外にも満足そうだった。あの人から借りたこの本を懐かしいと言う感情だけで片付けられるようになったのは、案外君のおかげかもしれません。
memory
(でも、忘れたりしない)
創作してみたorzもっと違う話も考えたいなあ^^