「どこの香り?」
行為のあと顔を埋めた胸元から香る爽やかな香りに惹かれて聞いた
『安モンよ』って言いながらも教えてくれたあなたの眠そうな声
ふとすれ違った人から同じ匂いがしたとき
もう嗅ぐことは出来ないのに
あの日の夜を思い出せた自分がいて
忘れられないんだなって事実を
あまり驚きもせず受け入れたこと
あなたが知ることはないんだね
気まぐれで会った日の夜
私が好きだったあの香りじゃなくなっていて
「なんで変えちゃったの?」と聞いた私に
『覚えてたんや、無くなったから変えたで』
何の気なしに答えたあなたが
少し切なくなったわたしの気持ちに気付くことはないんだね
別に特別な関係でもなんでもなかった
ただ数回、同じ夜に身を寄せただけ
想うなんてベッドの上でだけで
あなたとわたしの人生のたった数日を互いに通り過ぎただけ
あなたの柔らかいニットに包まれたあの日から
忘れられないものになったブランドの香水
誰もがつけてるメジャーな香りが
あなたを忘れることを許してくれない
こともきっと
あなたは知る由もないんだろうなあ
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