あの日は突然
そう、わたしとしてはだけど
そうなってしまって
まさかそんなつもりなくて
だから最初に「なんで?」って口にしたのだけれど

『〇〇がいいから』
優しい声でそう言われたから
いっか
って思っちゃったんだ



手が冷たかった
ほんとにこれでいいの?って
何度か自分に問うて

あのひとは知る由もない

別に、知ったところでなんと思うのか
わたしには検討もつかないし
これが流れってやつなのかってぼんやり考えてた



キスの仕方
ホックを外すタイミング
動き方も
声も
顔も
全部違うのに


呼びそうになったあのひとの名前
間違えてしまわないように肩を噛んで

痛くない?

あのひとなら言わない言葉だなって
少しときめいて
ゆっくりしてね、って返す

優しく壊さないようにしてくれる彼と
直すために楽しく壊す彼と
やっぱり後者が好きだななんて思ってみたりして



他の人の腕の中で
違う人のことを想うなんてことは初めてで
しめつけるたび漏れる吐息もまるで他人なのに
なんだか悲しくて
重ねてしまいそうになったその人に
背を向けて眠った


愛おしそうに見つめてくれるけれど
なんにも嬉しくなくて
あのひとがそうしてくれた日を思い返して
とてもつらくて


あのひとがこの人みたいに簡単だったらいいのに

なんて最低なことを考えながら
果てて倒れ込んだ彼の肩にキスをした






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