話題:テイルズオブヴェスペリア
「シュヴァーン」になり始めの頃は本当に空っぽの『人形』 だった彼。言われた事をやるだけ、自分の意志など微塵もない。何度人を殺めようと何も感じず、いくら傷付こうと気にも止めない。
「生きる事」はおろか「命を投げ出す事」すら止めた彼は、多分『生きて』いなかったのでしょう。
何もかもが他人事で、遠い。
噂だけが一人歩きする、虚像の英雄。
そんな彼を変えたのはやはりドン・ホワイトホース。馴れ初めは全く良いものではなかったものの、ダングレストで過ごすうちに彼の中に違う感覚が芽生え始めた。内側に向き続け前を見ようとすらしなかった彼の目が、僅かながらも外へと向くきっかけを作り出した。
そして、ユーリたちとの出会い。絶望を知らない輝かしい若者たちの純粋な感情に触れ、彼の中に「楽しい」という感情が芽生えた。暖かくて、優しくて、手放したくないようなものが。
それから彼は必要のない限り「シュヴァーン」ではなく「レイヴン」として過ごした。黄昏の街に腰を据え、目の前の小さな幸せに身を委ねるように肝心な事柄から目を逸らした。
アレクセイが人の目を見なくなった事、情報をあまりさらけ出さなくなった事、アレクセイにとっての「シュヴァーン」が『人』ではなく『道具』になりつつある事。
小さな疑念が胸に巣くったが、彼はそれに気付かないフリをした。
そして、悲劇は起きる。
イエガーによる、つまりアレクセイによる、ヴェリウスの排除。連なって起きる、血の制裁。ドン・ホワイトホースを排除する為の、大掛かりな仕掛け。それが見事に成されてしまった。
目を背けていたせいで、その片鱗にも気付けないまま。
ドンの死によって、アレクセイからの帰還命令によって、ここで「レイヴン」までもが死んだ。差し伸べられた手を掴むことが出来ないまま、彼は「シュヴァーン」に成らざるをえなかった。
最初から「シュヴァーン」でしかないのだ、と思い込んで。
そして、バクティオン神殿。
「シュヴァーン」は死ぬつもりだった。制御装置による自らの引導ではなく、裏切ってしまった“彼ら”による断罪によって。
そうする事によって自分を許したかった。罪を償えたと思いたかった。
でもユーリはそれを許さなかった。ユーリは「シュヴァーン」ではなく「レイヴン」を見ていた。
ドンの意志を継いだ男を、自分たちの「仲間」だった男を。
『人形』ではない、『道具』ではない、『道化』でもない、「レイヴン」を見ていた。
他でもない“彼”に、手を差し伸べていた。
虚空の仮面(下)、レイヴン公式番外の下巻、読み終えました。
自分だけではない、世界規模ですべてが移ろい、変わっていく。人も、物も、情勢も、何もかも。
もしも何も変わらぬままいられたら、幸せな未来を歩んでいたのだろうか。もしも「シュヴァーン」が心を持ちアレクセイの理想と共に歩んでいたら、もしもアレクセイの思想が歪まぬまま輝き続けていたら。
シュヴァーンになりたての頃のアレクセイとシュヴァーンのやりとりを見てると、そんな事を考えてしまいます。
あ、「レイヴン」が不幸せだって言いたい訳じゃないですよ。
キャナリが求めた「本当の騎士」を、それに近しい、または遠いかも知れないけれど確かに自分が追い求めるものを見つけた彼は、きっと幸せだと思います。
レイヴンの心情、別視点からの物語の動き等、ゲームでは知り得なかった出来事が分かるって嬉しいですよね。
何故レイヴンは初登場時牢屋の中にいたのかとか、カルボクラムでシュヴァーン隊がユーリたちを捕らえた理由とか。
レイヴンの名前の由来には笑っちゃいましたけどねぇ。よりにもよってネズミって…
まぁシュヴァーンはアレクセイが、レイヴンはドンがそれぞれ名付け親ってのは因果たっぷりで面白くはありますけど。
レイヴン好きさんじゃなくても、物語の補完として楽しめる作品になってます。
TOV好きさんは読んでみて損はないと思いますよ^^