「君はまあまあいい子だったみたいだね」
相手は書類を見ながらそう言った。
寿命で死んだため七十を過ぎた歳だというのに「いい子」と呼ばれ、思わず困ったように眉を寄せる。
ついでに、自分の一生が事細かに書かれているという書類を読まれていることも、眉宇を寄せる原因だ。
生前のちょっとした悪い行いによるマイナスと、善良に生きてきた故のプラスを合わせた、今の"自分の値段"とやら教えられた。
働いていた時の月給を遥かに上回る金額に、自分の価値はそんなに高かったのかと驚いてしまう。
平凡な人生を歩んだ私がこれなら、世紀の歌姫などは一体いくらなんだろう。
「じゃあ、注文を考えたまえ。受け付けはあっちだからね」
メイドのような髪も肌も白い女性に、メニューを渡された。
そこには『人間の体』『犬の体』や、果ては『ミジンコの体』とまであった。
右側には値段が書かれている。
ミジンコはかなり安いが、人間の体は法外の値段だ。
「君の来世を決める買い物だからね、ちゃんと考えることだ。オプションもあるよ」
青い瞳やら黒い瞳やら、色々と書かれていた。
どこの死神の目だ、という、他人の寿命が見える目もある。
文才や野球の才能というものもあり、涙や、感情や、視力など、あらゆるものがあった。
とりあえず、標準的な人間になりたい。
人間の体、感情、思考能力など、いわゆる標準装備に丸を付ける。
どんどん残金が減っていく。
最後に、私は何か才能がほしいと考えた。
若い頃、凡才な自分にコンプレックスがあったからだ。
そこで目を付けたのはIQだった。
どうせなら二百以上はほしい。
だがかなり高くて、何かを諦めなければならなかった。
どうするか、と悩んでいると、執事のような格好の白い男性が「注文はお決まりですか?」と微笑んだ。
「いえ、オプションで悩んでいまして……IQがほしいのですが、そうすると代わりに何かを諦めなければならないんですよ」
「ああ、分かります。そうですね……僕は涙を外すことをお勧めしますよ」
先程も嬉しそうに感情を外して歌の才能を買った方がおりました、と執事は微笑む。
「あちらの歌姫です。カナリアのように愛らしい声でしょう?」
確かに。
無表情で歌っている女性は、とても魅力的な声をしていた。
羨ましい。私もほしい。
決心が付いた。
執事は「注文がお決まりで?」と微笑む。
頷いた。
「IQはやめて、こっちの"輝く笑顔"にします」
「畏まりました」
良いお買い物ですね、と執事は言った。
>RADWIMPSのオーダーメイドを聞いてて思い付いた。