久しぶりのss投下でございます!(^∀^≡^∀^)
え?別に待ってなかったって?良いんだよ!自己満足乙なんだもの!ヾ(:3ノシヾ)ノシ
さて、本編三期が舞台なだけあってシリアス路線まっしぐらなこのお話ですが、私はギャグも好きです。定期的に笑いを供給しなければ生きて行けない程度には腹筋八分割並みの笑いを求めています。
《◎》《◎》<誰か私に笑いを…!!
追記→
『ここに!デスクロージャーデュエルの開催を宣言する!!』
『デュエリストは皆それぞれ、戦う義務を負っている!戦え!戦え!戦い続けるのだ!!』
【7】
「機械なんかで、本当に熱い心が測れるのかな…」
腕にはめたデスベルトを眺めながら、翔は溜息交じりに呟いた。
プロフェッサー・コブラによってデスクロージャーデュエルの開催が宣言されたのは、今朝の朝礼での事だ。
自他共に認める決闘馬鹿の十代などは毎日デュエルが出来ると大喜びだったが、相手へのリスペクト精神を大事にする翔にしてみれば正直あまり気の進むものではない。だがデスデュエルに勝ち続けなければ、兄のカイザーの名を継ぐ事は出来ない。
「僕、どうすればいいんだろう…」
はぁ…と翔は重い溜め息をついた。
「丸藤先輩、エドとカイザーの見送りに行かないザウルス?」
万丈目と話していた剣山が、解散してもその場を動かない翔に気づき駆け寄って来た。気の無い返事を返した翔は心ここにあらずといった風に俯きがちに歩き出した。剣山は始終疑問ばかりである。
卒業後もアカデミアを拠点にしていた亮が今日、始業式に来ていたエドと共にプロリーグへ出場する為本島に渡るのだ。十代達は先に港へ向かったようで、姿は見えない。
「それにしても、留学生が来てからアネキは楽しそうだドン」
「というより、ジムとヨハンだろう。まったく…十代のやつも、あいつらのどこがいいんだか」
剣山が頭の後ろで腕を組みながら何とはなしに言うと、隣を歩く万丈目が言葉を返す。その顔はいかにも不満であると言いたそうなしかめ面だ。
「…万丈目先輩、嫉妬ザウルス?」
「なっ、馬鹿を言うな!」
誰があんなやつをそもそも俺には天上院君というものがあってだな云々かんぬん…一人ブツブツと呟く万丈目の顔は仄かに赤く、明らかに嫉妬丸出しな態度を剣山に悉くからかわれている。
「(アネキか…)」
決闘を心から楽しむ姿からはDMに対する熱い想いが十分な程に伝わり、何よりその引きの強さと融合カードを駆使する鮮やかな戦術は目を引くものがある。翔にとっての亮とはまた違う意味で尊敬している相手だ。きっと彼女ならば、自分の求めていた答えをくれるかもしれない。
「聞きたい…アネキに」
「何を?」
「わぁっ!」
突如目の前に現れた琥珀色に翔は大きく後ずさった。いつの間にか港に着いていたようで、見上げた先には困惑気味な表情の十代が様子を伺っていた。隣にはヨハンの姿もある。
「大丈夫か?翔」
「う、うん…その…」
「うん?言ってみろよ」
「…僕は、勝ち負けよりも相手への心を尊重するリスペクトデュエルを目指してるっス。けど勝ち続けなきゃお兄さんのようなデュエリストにはなれない…僕、どうすればいいんスか?」
「うぅ〜ん…」
翔の言葉を受けた十代が腕を組む。十代は暫くうんうん唸っていたが、目の前の不安気な翔の顔と少し離れた場所で吹雪と会話していた亮を見比べると腕を解き、翔に向き直った。
「わかんないや」
「へ?」
十代が苦笑しながら告げる。翔はぽかんと口を開けて、姉貴分を凝視した。
「だってオレと翔は違う人間で、考え方も闘い方も何もかもが違うし」
だから、わかんない。
十代から何か答えが貰えると期待していた翔には、十代の言葉は突き放す言葉のように聞こえた。
他人事と言ったらそれまでだが、翔にとっては同級生であり女性でありながら強く、頼り甲斐のある十代は、兄とは別のもう一人の姉のようにも思っていたのだ。
他人が聞けば笑うかもしれない。だが、それ程までに十代という存在はとてつもなく大きく、道を左右する程の影響力を持っていた。
だからこそ、その分ショックが大きい。翔は「そんな…」と顔を俯け「アネキなら、何か言ってくれると思ったのに」と肩を落として項垂れた。
とぼとぼと翔は十代達を過ぎてエドと話していた明日香達の方へ向かって行く。
距離がある程度離れた所で、それまで黙って静観していたヨハンが口を開いた。
「良かったのか?翔は悩んでいたようだけど」
「んー、平気だろ。それよりオレ達も行こうぜ」
「…ああ」
***
「…気になるかい?」
見れば、吹雪が心底愉快そうに亮を見つめていた。
「翔くん?それとも十代ちゃん?」
「…吹雪」
窘めるように名を呼ぶと、吹雪は呆れ顔で肩を竦めた。すると何を思ったのか意気消沈した様子の翔を呼ぶ。
「大会に行く前に心配の種が出来てもね」
「…すまない」
「まぁ、売っておいて損な恩は無いからさ」
ぽん、と肩を叩き吹雪はひらひらと手を振りながら十代達の方へ歩いて行った。途中でこちらへ向かって来る翔とすれ違う。
普段面倒事しか起こさない吹雪だが、その実人の感情の変化にはとても敏い。こうして言葉数の多くない亮をフォローする事も少なくないのだ。
「お兄さん?」
亮は自分を見上げる弟に向き直った。その顔にはいまだ不安気な色が残っている。
「翔、」
「?」
「…帰ったら、久しぶりに決闘するか」
「! うん!」
亮の遠回しな一言でみるみる内に喜色を露わにする弟の様子に、内心ひっそりと安堵の息をついた。
吹雪のように学園内でも兄妹だとおおっぴらにかまう事は無いが、亮からすれば翔はいつまで経っても可愛い弟のままなのだ。気落ちしていれば励ましてやりたくなるし、頑張っていれば応援してやりたい。これからまだまだ成長するであろう弟の頭を撫でれば、年相応の顔ではにかむ。
どうやら気遣いは無駄にならなかったようだ。吹雪は二人の様子を盗み見てこっそり笑みを浮かべた。
「まったく亮は不器用なんだから」
「兄さん?」
「ふふ、何でもないよ。さて、僕らは二人を盛大に見送ろうかあすりん」
「もう!あすりんはやめてったら」
ぷいっと明日香が腕を組んでそっぽを向くと、吹雪はクスクスと小さく笑みを溢す。次いでエドと談笑する十代に目を向けると、悲しみの入り混じった笑みを浮かべた。
「(…このままでいい……これが、幸せだ…)」
『吹雪お兄ちゃん』
「吹雪さん!カイザーとエドがもう行くって!」
「…ああ、今行くよ」
大きく手を振って自分を呼ぶ十代に言葉を返して、吹雪は隣に最愛の妹を伴い歩き出した。すでに亮とエドは乗船してこちらを見下ろしている。
「カイザー!エド!頑張れよ!帰って来たらオレとデュエルだ!!」
「それはいいが、決闘馬鹿もほどほどにしてそろそろ女らしさを磨けよ、十代」
「何も言い返せないザウルス」
「何だよ〜」
「十代を頼んだぞ、明日香」
「任せて、亮。十代を立派な女の子にしてみせるわ」
「明日香まで!」
「女らしい十代…」
「あら万丈目君、何を想像してるの?」
「なな、何でもないさ!天上院君!」
「ほっ…」
「ちなみに僕もいるからね、十代ちゃん」
「げっ」
天上院兄妹の良い笑顔に顔を顰める十代に仲間達から笑い声が上がる。十代はそれにむすっとしてそっぽを向き、次いで船上の亮達を見上げた。同時に船にエンジンがかかりゆっくりと前に進み出す。
「それじゃあみんな、行って来る」
「帰って来るまでに腕を磨いておけよ、十代」
「もちろん!二人ともいってらっしゃい!!」
彼らを乗せた船がどんどん離れて小さくなり、姿が見えなくなるまで手を振る。
「…よし」
そして彼らの最後尾で見送っていた翔は何かを決意したように拳を握った。
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