【8月15日午後12時半】信号無視で道路に飛び出し、走ってきたトラックに轢かれ死亡。
【8月14日午前12時過ぎ】工事中のビルから鉄柱が落下し死亡。
今更気づいた事がある。
―――俺はこの二日間を、何回、いや、何十回繰り返した?
いつかバイト先の社長が言っていた。
『あなた達もうすぐ夏休みよね?夏には気を付けなさい』
『は?夏?』
訝しげに眉を潜めれば、机上の書類に視線を向けたまま運び屋「日々寧日」の女社長は口元に笑みを浮かべた。
『熱中症とかそういう話か?』
夏といえば熱中症や食中毒の話をよく耳にする。
それだろうか。
『違うわよ。ほら、聞いたことない?‘タイムリープ’って』
『タイムリープ?何だそりゃあ』
『あら、知らないの?タイムリープっていうのは、まぁ簡単に言えば時間旅行かしら』
ますます訳がわからないと眉間の皺を濃くすれば、立ち上がった社長に額をデコピンされた。
かなり力を押さえたようだが、地味に痛い。
『そうね…例えば終わった今日を繰り返す、とか』
『終わった今日を、繰り返す?』
そう、と俺の正面に座って女社長は手に持ったアイスコーヒーに口付けた。
『懐かしいわ…私も若い頃しょっちゅう飛んでいたものよ』
『と、飛ぶ?』
もう訳が分からない。
あの頃は冗談半分に聞いていたが、今となっては笑い事ではない。
何せ大切な恋人が死を繰り返しているのだから。
【3】
病気になりそうなほど眩しい日差し、煩い蝉の声。
そのすべてを覚えている。
「そしたらカルがね…」
アイス片手に話す彼女の横顔も、その声も、はっきり記憶している。
『俺、魔法使いなんだ』
隣を歩く少女を見る。
相変わらず猫好きな友人を巻き込んだ騒動での武勇伝は終わっておらず、その時を思い出しては楽しげに笑っていた。
「(あれはどういう意味だったんだ…?)」
「ヒスイ、眉間に皺寄ってる」
いつの間にか考え込んでいた俺の意識を引き戻したのは、細い指から繰り出された眉間への衝撃だった。
考え事?と俺の眉間を弾いた少女がクスクスと笑う。
「イネスみたいなことすんなよ」
「ごめんごめん。だってあまりに深刻な顔してたから。何かあったの?」
大きな琥珀の双眸をしばたかせてシングが首を傾げると、艶のある茶髪が肩から一房こぼれた。
柔らかなその髪にそっと触れ嘆息。
「なぁシング」
「うん?」
「俺の事好きか?」
「ヒスイったら、不安なの?…バカだなぁ」
「なっ、俺は別に…!」
何度世界が眩んでも、陽炎が嗤って奪い去る。
何回、何十回繰り返して、一度だって愛する彼女を救えなかった。
不意に俺の手は温かな熱に包まれた。
「…手が冷たい人は、心があったかいんだよ。知ってた?」
「…………」
「俺がヒスイを好きじゃなくなるなんてこと、絶対にないよ。だから安心して」
「シング…」
「ヒスイ、大好き」
もう、とっくに気付いていた。
「シング、愛してる」
シングの答えも俺の答えも、そして、
「うん」
この話の、結末も。
【8月15日午後12時半】
バッと押し退け飛び込んだ瞬間トラックにぶち当たる。
血飛沫の色、軋む体と君の瞳に乱反射して。
文句ありげな陽炎に「ざまぁみろよ」って笑ったら。
実によくある夏の1コマ、そんな何かがここで終わった。
「っ、ヒスイ…!」
最期に見えたのは泣きそうに歪んだ君の潤んだ瞳と、こちらを振り返った白い猫と、赤い赤い色だった。
【8月14日ーー時ーー分】
狭い部屋、白いベッド。
大きな琥珀の双眸を持つ茶髪の少女。
細い腕に抱いた白猫。
きっとカーテンに閉ざされた窓の向こうでは雲一つない快晴が広がり、蝉が煩く合唱しているのだろう。
「またダメだったよ」
にゃあ、
End.
これで【カゲロウデイズ】は完結です。
単純馬鹿な管理人の考察じゃ、歌詞パロにしたって何も伝わらない!
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