最後の最後だから、伝えたいんです…。
【最後の告白】
私にとって貴方は特別でした。
貴方の弾くピアノで歌うと心地良くて、貴方に励まされると力が湧きました。
辛い事があって世界が色褪せてしまった時でも、貴方の周りだけはキラキラと輝いて見えて。
貴方と貴方の周りだけが綺麗に色付いて見えたんです。
ずっとずっと心にしまって置こうと思っていました。
でも、明日が来てしまえばこの想いは誰にも知られる事なくひっそりと消えてしまうのかと思うと、心の中で持て余していた淡い恋心が哀れに思えたんです。
懺悔は後でいくらでもします。
ですからどうか神様、私にほんの少しだけ勇気を下さい。
子供のように稚拙な憧憬と恋慕を向けていたあの人に、この罪深い想いを伝える勇気を下さい。
この想いの行方はわかります。
あの人の"好き"と私の"好き"は違うのですから。
下手な台本を読むよりも簡単かつ単純なシナリオです。
私の想いはきっとあの人には受け入れられる事なく儚く散るのでしょう。
でも、それでいいんです。
何も私とあの人を結んでくれと言うのではないんです。
ただ、"友達"へ向けるいつも通りの笑顔を浮かべるあの人の中に、少しでも私という存在を残したかったのかもしれません。
決して叶う事の無いこの幼い片想いが確かに存在していたと知っていて欲しかっただけなのかもしれません。
『潔く振ってください……ずっと、貴方が好きでした…』
困らせたい訳じゃないんです。
…いえ、これまでは貴方を困らせたくなかったけど、もしかしたら最後くらい私の事で困らせてみたかったのかもしれません。
貴方は優しい人だから、きっと柔らかい真綿に包んだような優しい言葉をくれるのでしょう。
『………………』
案の定、貴方の言葉はとても優しいものでした。
でもその優しさがその時だけはどうしようもなく胸を締め付けて、目の奥が熱くなりました。
『友達だよね?』
『うん、友達だよ』
もっと早くに勇気を振り絞って伝えていれば報われた想いかもしれません。
伝える事無く終わってもいつか薄れ報われぬ想いに悲しみを抱かずに済んだかもしれません。
けれど、だからこそ、私は伝えました。
最後の最後だから。
夢も、行く先も、目指す場所も違う私達は、きっと少しずつ遠くなってしまう。
貴方の中の私は大勢の"友達"の一人なのに、私の中の貴方はずっと特別なままで。
私にとって貴方の存在は大き過ぎて。
どうしたって会いたくなってしまうし、声を聞きたくなってしまうんです。
私だけが新しいスタートを切る事が出来なくなってしまいます。
『ありがとう、ありがとう、そしてごめんなさい…』
最後まで貴方は優しいままで。
その笑顔に私は救われました。
神様、私は後悔などしていません。
あの人の優しさは私の背中を押してくれたのです。
私はあの人に出逢えて良かったと、あの人の事を好きになれて良かったと、そう思っています。
これで私も皆と同じように新しい道へ踏み出せます。
大切な貴方へありがとう、そしてさようなら、私の恋心。
End.
今日でついに学生時代が終わります。
明日から私はもうこの学生服を着て電車に乗る事も、クラスの皆と毎日顔を合わせて笑い合う事も出来なくなります。
でもこれは終わりではなく、始まりです。
私も、新しい道へ歩き出すんです。
みんな、今日までありがとう。
そして、これからもよろしくね。