私は後悔していた。
仮にも私の恋人というポジションを陣取っているこの男に誘われてホテルで食事をしたこと。
そこで酒をしこたま飲んだこと。
部屋を取ったと言われてのこのことついていったこと。
男にキスをされてそれを受け入れたこと。
そして何より、事が始まる前にトイレに行っておかなかったことを。
薄暗い室内にベッドの微かな軋みとそれに被さるように荒い呼吸音とくぐもったような嬌声が聞こえる。
老年と言われてもおかしくない歳の男が二人、ベッドで何をしているのか…時々と言わず常に自問自答している訳だが、この男との関係は不思議と切れずに今に至る。
そろそろセックスをしても疲れしか残らなくなってきたが、私の上で腰を打ち付けてくる男の精力は衰えることを知らない。
いや、昔よりはマシになった方ではある。
だがこの男のセックスはそれでも長いのだ。
まずいな。
揺さ振られている内にだんだんと高まってきた衝動。
これは射精感ではない。
「はッ、ああ!…あ、…ファー…、ダルファーっ…!」
「ハッ、ハッ、ハ…な、んだい…ッ?」
男は私の静止の声に不満げに唇を突き出しながらも動きを緩めた。
完全に止まることはなく緩く突いてくる辺りに殺意が湧く。
「ン…い、一度止めろ…」
「は、そんなことできるわけないだろう…ああ!もしかしてもうイきそうなのかい?」
違う。
そう言いたくともどうにもプライドが邪魔をして口ごもってしまう。
それをどう受け取ったのか、男はニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながらは私の性器を悪戯に扱きだした。
「ふ、ざけ…ッ…くっ、ぅあ、アアア…!」
悪ふざけに罵倒しようと口を開くが、一度抜かれた性器を再び押し込まれた為に強制的に意味のない音に塗り替えられてしまう。
そんな私の姿に調子に乗った男は私の足を抱えて己の肩に掛けさせた。
「やめ、やめろっ…本当に…もう…ッでてしまう…!」
この態勢から始まる行為の激しさを私は知っている。
頭に登っていた血の気がさぁっと下りてくる。
運動からかいた汗ではない冷や汗が額を伝っていった。
「だから、出して構わないって、言ってるだろうッ?」
腹筋に力を入れて無理に上半身を起こそうとすれば、肩を掴まれてベッドに押し戻される。
きつく抑えられたまま、再開した激しい律動に息を飲んだ。
駄目だ。
今この衝動を耐えること以外に意識を持っていかれたら。
確実に。
そんななけなしの思考を奪うかのように、握られていた性器の頭頂部、小さな穴をこじ開けるかのように太い指でこねられ、一際強く深く内臓を突き上げられた。
男の硬く熱い性器が腸壁を押し広げ、張り出たカリ部分でごりごりと前立腺を押し潰す。
その動きは今の私にとって最も忌避したかったもの。
内側から男によって躊躇なく突かれた、器官。
もうム、リだ。
「ひィっ、う、う…っ…」
「え…」
とうとう、それは決壊を迎えた。
ショロ…
生温かい液体が性器を伝って流れ、男の右手と私の腹を盛大に濡らし、更にシーツに零れ落ちていく。
水流は瞬く間に勢いを増して、止めようとしても弛緩した肉体はそれをさせてはくれない。
シーツにできた水溜まりはどんどん広がっていく。
絶望した。
目の前で驚いたような表情を浮かべている男に。
そして何より、溜まった尿が排出される感覚にすら身体をひくつかせる浅ましい自分に。
鼻の奥が痛み、視界が滲んで不鮮明になる。
私は泣いているのか。
年甲斐もなく。
これ以上の醜態をこの男に見せることなど死んでも嫌で、気休めにもならないと分かっていても腕で顔を覆うしかなかった。
全ての排出が終わり、その場には沈黙が降りる。
それが一層私を惨めな気分にさせた。
「えっと…ミル…」
「…っ、だ…から…やめろと…言ったのだ…ッ!」
ともすれば嗚咽を漏らしてしまいそうになるのを耐え、それでも上擦る声を抑えられない。
みっともない。
情けない。
一刻も早くこの空間から消え去りたい。
「ミル…、ぐぇ!!」
衰えたとはいえまだ目の前の男を転がす程度には残っている脚力で、私は上に今だ覆い被さる男の弛んだ腹を蹴り飛ばす。
不様にベッドから転げ落ちた男に一瞥もくれずに、私はバスルームへと駆け込んだのだった。
Sノさんと話したダルミル小スカ。
書いてる内に落ちを見失った。
ギャグにしようと思ってたのにミルコビッチが思い悩み過ぎた。
誰か続き書いて。