店員さんが慌ただしく移動する、倉庫みたいな古本コーナーに再度入ろうとしたら、女性店員に声をかけられた。
「あ、いたいた!一階駐車場で待ってるみたいですよ!」
何のことかわからず聞こうとするも、多忙感と滲み出る少しの苛立ちに氣が引ける。
一緒にいた男性店員に聞いてみる。
待ち合わせは一階の駐車場だったみたいですよ、もうかなり過ぎてるから急いだほうがいいですよ、との事。
自分が店員さんに何かを相談した記憶は無い。
突発的に始まる夢だから……では無くて、その夢の中ですらそんな記憶は無い。
しかし小走りで着いてきてくれる男性店員と店外へ出て相手(誰?)を探す。
するとたどり着いた駐車場では無く隣の駐車場から、くすんだ白い色の見たことないデザインの車がゆっくり出ていくのが見えた。
店員さん曰くあの車らしい。タッチの差で諦めて帰ろうとしているようだ。
慌てて(相手が誰だかも判らないけど)手を振りながら走り寄る。
遊園地で見るような、上半身が丸見えなデザインをした後部座席が2列ある車だった。
車体横に社名?が書かれている。
◯◯葬儀だか墓場だかあの世だか、思い出せないけどそんなニュアンスの言葉だった。
見ると氣付いてフェンス越しの車からこちらをみつめる運転手の顔も潰れていた。失敗して塗り潰された油彩みたいに。
「あれ?これはついていかないほうがいいやつでは?」
と、運転手と見つめ合いながら考えていたら目が覚めた。
*
店員さんに声を掛けられる前、階段を降りていた。非常階段みたいな狭くて暗い階段だったけど、所々にくすんだパステルカラーの箱が積まれたり並んだりしている不思議な階段だった。
踊場の奥から光が漏れていて、見ると待合室のような部屋があった。
そこでさっき見掛けたばかりの欧米人(イメイヂ的にはドイツ人ぽい)の少女が見えた。
手前は手を上げて声を掛けたが、全く反応が無い。聴こえないのかと思っていると、更に奥に同じく欧米人に見える淑女と老婆がいた。
怪訝な顔をされたので、「さっき彼女に会ったんです。パフォーマンス凄かったですね、大声援でしたよ」と伝えたが、益々怪訝な顔をされた。
人違いをしているのかもしれない、と不安に成り、隣の部屋の少女を指して
「さっきのセレモニーに出ていましたよね?」
「一番声援が多かった義足の子ですよね?」
と確認する。どんどん相手の顔が険しくなった。
そんなセレモニー自体知らないと云う顔だった。不安に成った手前は今一度少女に目をやる。
少し赤みを帯びた白い肌。赤茶の巻き毛、うっすら出たそばかす。
困ったように見える、垂れた薄い眉とオリーブ色の目。
間違いないのに、その少女の表情は笑顔に変わっていた。そして全く動かなかった。
氣付けば待合室だった風景は、どことなく個人宅の室内のように見える。
淑女が云った。
「その写真は母の子供の頃の写真ですよ」
*
屋上にいる。
懐かしい屋上遊園地みたいな場所。
人が沢山いる。
綺麗に一列に、何かに並んでいる。
手前もそこにいたけれど、何なのかは全く思い出せない。
只何かをきっかけに、大きな違和感とそれに伴う恐怖を覚えた。
全く思い出せない。
係の人が話し掛けてくる。色々なグループの話が何とはなしに耳に入って來る。
違和感。記憶と全く合致しないような、そんな違和感。
断絶。
薄暗い階段を降りて帰ろうとしている手前。
何故かあちこちに木箱が詰まれていて邪魔だった。
*
屋上で行われる国際的なセレモニーがあるらしく、体育館のようなそのフロアにも人が沢山いた。
何でも「何かしらに参加しなくてはいけない」らしい。
教えてくれたのは教育係みたいなヤンキーだった。
「お前は問題児で有名だからちゃんとしろ」みたいな事も云われた氣がする。
とは云え負傷等の場合は免除してくれるらしい。
余りにも面倒臭かったので「今から足の爪を剥いで免除してもらおう」と、ぼんやり考えていた。
*
屋上で国際的なセレモニーが行われるらしい。それこそ五輪みたいな、世界が注目する大イベントだ。
屋上に続く階段は人が犇めきあっていた。
息苦しく成って引き返そうと思ったら、柵?バリケード?のところで1人の少女を見掛けた。
ドイツ人ぽい見た目をした十代半ばの巻き毛の彼女は、泣きそうな顔で手元を見ている。
車椅子が柵を越えられないらしい。
何故か誰も見向きもしないので、手前は彼女のところへ方向転換した。
言葉が通じるか判らなかったのでジェスチャーで挨拶をして、彼女の車椅子を持ち上げて柵を跨がせた。
彼女は相変わらず困ったような泣きそうな顔をしていた。
そのまま車椅子に乗って?押して?出口に向かっていった。彼女の義足がちらりと見えた。
*
本屋にいた。
ビルの一階の、初めて來る本屋だった。
一階全てが本屋で、とても広い。奥行きが特に凄い。
何とはなしに階段を上ってみた。
2階だか3階だか4階だか…全く思い出せない。
ふいに薄暗い空間の奥にオレンジ色の光と沢山の店員さんが見えた。
スタッフオンリー、在庫置き場に來てしまったのだろうか?と思っていると、1人の男性が躊躇せずにそこに入っていく。
好奇心に負けて入ってみると、そこは確かに在庫置き場の倉庫のようだった。
けれどオレンジ色の灯りがよそ行きの顔をして点いている。
中には店員さんの他にも沢山の客がいた。
倉庫に見えたそこは、大きな古本スペースだった。
同じ作品でも色々な装丁が新旧問わずに並んでいる。
値段も数千円から20円と幅広い。
「これは素晴らしいところを見付けたな!」と手前はウキウキで本を手に取った。
*
夢の始まりは覚えていない。