追記に3話まで置いときます。
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追記に3話まで置いときます。
2
ギシギシ鳴る階段を、慎重に上がる。手すりは埃を被っていて、触れる気になれなかった。同じく埃を被った階段には、少年の足跡がクッキリと残っている。
間取りはわからないが、2階にいる少年がいた部屋の場所は見当がつく。
それにしても、何故あの少年はもう一人を残して2階になど行ったのだろう。助けを呼ぶのなら外に出れば良いのだし、出なくたって1階から呼べば良い。わざわざ2階へ上がる必要などない。
しかも、こんな危険な階段を上ってまで……。
――これは……。
ドアの前で立ち止まり、じっくりとドアを見る。
まるで斧か何かで壊そうとしたかのように、傷だらけなドア。##name_2##のように感情が鈍い人間でなければ、開ける気になどならないだろう。
ドアノブを捻る。
今度は鍵がかかっていた。少年があれから移動していなければ、彼が閉じこもっているはずだ。
「ブン太くん? 中にいる?」
普通の神経ならできないことだが、##name_2##はボロボロのドアをノックしながら呼びかける。初対面で名前呼びは馴れ馴れしいが、名前しか知らないから仕方ない。
室内から音がする。
「さっきの、女子か?」
やはり、中に閉じこもったままらしい。
「ええ。地下に落ちた彼を助けたいんだけど……」
「男は!?」
「男?」
緊張感を漂わせた声音に首を傾げる。
「斧を持った……」
斧を持った男とは、大変物騒な話だ。
てっきり自分と少年二人しかいないと思っていたが、この空き家にはそんな危ない人間が潜んでいたのだろうか。なるほど、それならこの少年が部屋に閉じこもっているのも納得である。このドアの傷は、その男がつけたものかもしれない。
「見ていないわ。人が入ってきたから、逃げたんじゃないかしら」
「本当に……?」
「まだいるようだったら、とっくに私が殺されてるわ。逃げ足遅いもの」
数秒沈黙してから、室内で何かを動かす大きな音がした。待っていると、やっとドアが内側から開けられた。
そうっと、赤毛の少年が顔を出す。まだ恐怖は抜け切れていないようで、表情が強張っている。
少年のすぐ側には、乱雑に置かれたパイプベッド。おそらくバリケードに使っていたのだろう。
「彼が下で待ってるわ。行きましょう」
「お、おう……。そうだ、ジャッカルは大丈夫だったのかよぃ?」
落ちた少年の名前はジャッカルというようだ。
「見た所、怪我らしい怪我はないみたい」
「良かった……助ける前に追いかけられて、つい……」
友人を置いて逃げてしまったことに負い目があるのだろう、ばつが悪そうな顔をする。
一体どんな状況だったのか詳しくはわからないが、仕方のないことだろう。生命の危機を感じて、咄嗟に逃げてしまうのは当然のことだ。周囲を気遣える程の冷静さを残せる人間の方が少ないはず。落ちた友人を助ける余裕があったとは思えない。
急ごうぜと、どさくさに紛れて少年は##name_2##の手を掴み歩き出す。手を使うスポーツをしているのか、随分と固い掌だ。僅かに震えている手を握り返すことはしないが、言及することもしない。
「うわっ……」
急に少年が悲鳴を上げ、##name_2##の手を掴んだまま方向転換して走ろうとする。
「ちょっと―――」
危ないわよ。
そう言いきる前に、少年が床を踏み抜いた。またもや悲鳴を上げる少年に、##name_2##はそろそろ面倒臭くなってきた。
「大丈夫? 床が腐ってるんだから、気をつけないと……」
「あ…あ……」
少年は歯をガチガチ鳴らしながら、廊下の奥の方を見ている。
##name_2##も見て見るが、暗すぎるせいか、目が悪いからか、何も見えない。闇が広がっているだけだ。
「どうしたの」
「な、何言って……そこに、さっきの男が……逃げねえと……」
携帯のライトで廊下を照らす。が、やはり誰もいない。
「いないじゃない。インパクトが強すぎて、まだいるように感じたのよ、きっと」
「は……」
納得のいかない顔で少年が##name_2##を見上げ、##name_2##と廊下を交互に見る。
##name_2##が見えていないだけで、本当に男がいるように見えているのだろうか。まさかこの少年、この家が空き家なのを良いことに、こっそりここで危ない薬を服用してるのではないか。
ちらりと思ったが、何も聞かないことにする。この少年がここで何をしていようと、自分には関係のないことだ。
「それよりもほら……出れる?」
少年の腕を引く。少年は警戒したように廊下の方を見たまま、ゆっくりと床から足を抜く。
「怪我は?」
「ちょっと痛ぇ……けど、歩ける」
「良かった、私じゃ運べないもの」
「ウワアァァァーッ!!」
階下から悲鳴が響き渡る。今度は下のようだ。
「ジャッカル!!」
「あ、もう――」
気をつけろと言った矢先に、少年がまた##name_2##の手を掴んで走り出す。今度は運良く、床がうるさく鳴るだけだった。
3
「ジャッカル! おい、無事かよジャッカル!」
「ブン太、ブン太、助けてくれッ! 女の子、女の子が――」
今度は女の子の幻覚かと息を吐く。
捕まれとブン太少年が地下室へ手を伸ばし、ジャッカル少年がジャンプしてガッシリと掴んだ。
「ひっ」
ジャッカル少年の顔が青ざめる。何故か、しきりに片足をブンブンと振る。
暴れてないで、大人しくしていた方がブン太少年も引き上げやすいだろうに。
「う、うわあああ!」
気合を入れるためなのか知らないが、ブン太少年も大声を出しながらジャッカル少年の手を引っ張る。
##name_2##も手を伸ばして、ジャッカル少年の腕を掴む。非力な腕だが、ないよりましだろう。
「あっ」
勢いが良すぎたのか、引っ張り上げたジャッカル少年諸とも3人仲良く床に転倒した。埃と腐った板の臭いがムワっと鼻を刺激する。うっかり埃を吸い込んでしまい、##name_2##は咳をする。
「ぶ……無事かよぃ、ジャッカル……」
「ああ……。悪い、二人とも……」
「とにかく早くここを出ようぜ。もうここにいたくねえよ」
「ええ」
##name_2##も同感だ。この古くて危ない空き家にも、幻覚を見てるんだかよくわからない少年二人にもうんざりしていた。
コンビニへのちょっとしたお使いにしては、時間がかかり過ぎた。帰る頃には叔母は心配しているかもしれない。
まあ、偶然クラスの人と会って雑談していたと言えば信じてくれるだろう。強ち間違ってもいない。
床がギシギシ煩く軋むのも構わず、急ぎ足で玄関に向かう。
ブン太少年が玄関のドアノブを捻る。
開かない。
「――は?」
乱暴にドアノブを回すが、ガチャガチャと忙しなく音を立てるだけで、玄関はびくともしない。
この空き家へ入った時は、すんなり開いたのだが。
「おい、どういうことだよ! 何で開かねえんだ!」
「鍵がかかってんじゃないのか!?」
「良く見ろ、開いてんだろぃ!」
「じゃあまさか閉じ込められた……!?」
古いし建てつけが悪いのだろう。
この少年二人がタックルしてドアを壊すという手もあるが、所有権が誰のものか知れない空き家を壊すのは気が引ける。
ドアノブを上に押し上げたりしながら捻れば、ひょっとして――パニックを起こしかけてる二人を尻目に、##name_2##は思いつきを試してみる。
今度は、入ってきた時と同じようにあっさりと開いた。
「開いたわよ」
少しだけ開けたドアを二人に見せる。
「へっ?」
「な、何で……」
「建てつけが悪かっただけでしょう」
不思議そうにドアを見ている二人に、早く出ようと促し、ドアを押す。
「危ない!!」
「は」
急にブン太少年に壁に押し付けられた。背中を壁に強かに打つ。
何をするの。
そう聞こうと口を開くより先に、眼前を何かが飛んでいった。
ドアに何かがぶつかる音がする。
ドアを見て、さすがの##name_2##も驚いた。
斧だ。
斧がドアに深々と突き刺さっている。
誰かが、廊下の方から##name_2##たちに向かって斧を投げたのだ。
廊下の奥を確認するより先に、ブン太少年に腕を引かれて空き家を飛び出した。
何度も足がもつれそうになりながら引っ張られ続けていると、ようやく少年たちは明るいコンビニの前で足を止めてくれた。
元々の目的地だったから、丁度良い。
「も、もう……大丈夫だよ、な?」
「た、多分……。何も追いかけてこねえし……」
息をするのが精一杯で、##name_2##はまだ喋る余裕がない。
全力疾走したのなんて、かなり久しぶりだ。
数秒誰もいない後方を確認して、少年二人は揃って深い息を吐いた。
「助かった……」
「マジでビビったぜ、まったく……」
ブン太少年が##name_2##を見る。
「お前、えーっと――」
「##name_1##よ」
「##name_1##か。サンキュー、助けに来てくれて」
「ああ、ホント……死ぬかと思った。ありがとうな」
「私は何も……むしろ助けられたわ」
ブン太少年が斧に気付かなかったら、間違いなく##name_2##の急所に当たっていた。あの勢いだと、即死だっただろう。
性 別 | 女性 |
誕生日 | 8月17日 |