話題:SS



同棲カップルのきぃくんとミヤコさん。
いたずら好きのお茶目な彼氏のきぃくんに、彼女のミヤコさんはいつも手を焼いていました。

ある冬の日、ミヤコさんがお仕事を終えて家に帰ると、先に帰っていたきぃくんが晩ごはんを作って待っていました。

「きぃくんどうしたの!?」

いつもはミヤコさんが料理をしたりお惣菜をお互いに買い合ったりするので、きぃくんが一人で何かを作って待っていてくれるのは初めてでした。ミヤコさんはびっくり仰天。
家の中はほかほか、キッチンはお鍋やまな板でぐちゃぐちゃ。

「『今日のご飯は僕が用意するからいいよ〜』とは聞いていたけど……」

「うん!ミヤコさんに初めてのおもてなししてみました!」

エプロン姿のきぃくん。テーブルにはもうもうと湯気の立ち上った皿に、クリーム色の──。

「牡蠣グラタンです!」

「初めての料理でいきなりグラタン!?しかも牡蠣!?レベル高いとこ攻めたね〜」

ミヤコさんは感心するやら驚くやら。

「しかも牡蠣なんて超贅沢!」

「まぁいーから食べて食べて、ミヤコさん!」

「お……おう」

ツッコミもそこそこに、ミヤコさんは言われるがままコートを脱いでうがい手洗いをして、ちょこんと牡蠣グラタンの前に座りました。向かいには同じようにきぃくんの分も用意されています。
ベシャメルソースのいい匂いが鼻孔をくすぐり、食欲をかき立てます。ミヤコさんは「料理なんか滅多にしないきぃくんが、こんな風に食事を用意して待っててくれるなんて」と感動が込み上げます。

しかも、ミヤコさんのグラタンの前にはフォークではなくスプーンが置いてありました。ミヤコさんは食べ方が豪快なので、グラタンを食べる時はいつもフォークでチクチク刺して食べるのではなく、スプーンですくって食べます。それをわかってくれているきぃくんの心配りにも感動していました。
貝殻みたいな形をしたグラタン皿。同棲一年目の年に、二人でオシャレなインテリアショップで買ったものでした。牡蠣グラタンだけに貝殻のお皿を選ぶセンスもなかなかだとミヤコさんは思いました。

「とにかくありがとう、きぃくん!私うれしい!美味しそう!いただきまーす!」

「まーす!」

二人向かい合わせに座って、パチンと手を合わせました。ミヤコさんはスプーンを、きぃくんはフォークを持ってグラタンを食べ始めます。

「焦げ目もいい感じ。あんまり水っぽくないし出来栄えも悪くないね。やるじゃん」

「だっていっぱい練習したもん」

料理評論家気取りで冗談めかしく寸評するミヤコさんと、照れ笑いするきぃくん。ミヤコさんがスプーンでグラタンと牡蠣をすくってはフーフーし、あーんと口を開け、あむっとスプーンを口に入れました。すると──。

ガキッ。

「──ん?」

一瞬、ミヤコさんは牡蠣の殻が入っていたのかなと思いました。
けれど、その割には磯臭くなくジャリジャリとしていない──とにかく、柔らかいはずのグラタンの中に潜んでいた固いものに、ミヤコさんは首を傾げました。

「……んあ?何だろこれ……」

「婚約指輪」

「プホォッ!!」

ミヤコさんは異物を吐きました。スポンッと飛び出したそれはきぃくんの額へとダイレクトに当たりました。

「熱っ……、痛いよミヤコさん!しかもベシャメルソースがベチャッて……」

「どっちのせいよ!いたずらにも程があるでしょーが!飲み込んだらどーすんのよ!こんな大事なものグラタンに混ぜちゃうなんて……!」

額を押さえるきぃくんに、ミヤコさんは怒鳴りつけます。

「僕なりのサプライズのつもりだったんだけどー……」

「そうでしょーね!こんなことする奴なんてあんたしかいないからね!そもそもあんたは──」

いつもそういういたずらばっかして──と、クドクドクドクド、ガミガミガミガミ説教をするミヤコさん。だけどきぃくんはそんな説教などどこ吹く風。どこか満足顔でニコニコしています。

「……いや、そんな『大・成・功』みたいな顔されても。全然大成功してないからね」

げんなりと肩を落とすミヤコさんに、きぃくんがいつの間にか拾っていた指輪を差し出しながら言うのです。

「はい!結婚してくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」

「まさかのハロウィンノリ!?時季ズレてるから!ってゆーかもうしちゃってるからね、いたずら!しちゃった後だから!」

「うん、しちゃった後だった」

「え、まさかのオウム返し?」

それでも尚ニコニコしているきぃくんに、ミヤコさんはいよいよ脱力して笑いだしました。
そして、受け取ったベシャメルまみれの指輪を見つめながら思います。

……あーあ、せっかくの指輪こんなになっちゃって。プラチナじゃん?しかもイニシャルまで丁寧に彫られてるのに……。結婚雑誌のカタログで見たことあるわ。お給料3か月分というヤツでせうか。
あーあ、ムード台無し……トホホって感じだよ。大事な大事なプロポーズが、こんな異物混入という体を成すとは……。

「だからミヤコさん」

「あい?」

せっかくの婚約指輪を残念そうに見つめているミヤコさんに、きぃくんがキリッと改まって膝を揃えます。

「今度帰省するでしょ?その時、僕もついてっていいかな?ご両親にきっちりとご挨拶がしたい」

「……。おっけー」

「え?ホントに?」

「うん」

喜色に満ちたきぃくんの顔。大成功でいいよもう。あんたとなら、何があっても笑って乗り越えられる気がするから。

「きぃくん」

「ん?」

「コレ、一回洗ってきていいかな?」

「うん!」

「洗うといえば、キッチンの洗い物ちゃんとやってね。私も手伝ってあげるから」

「うん!」

「それときぃくん」

「ん?」

「こんないたずら、絶対に他の子にしちゃダメよ」

「……うん!」




『きぃくんといっしょ』
ーおわりー



【グラタン、いたずら、初めての】
Twitterお題bot*(@0daib0t)様より

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アトガキ

夫婦漫才風書きたかった。
12月に冬至ネタにしようと思ったんだけどup間に合わず。
12月に書いたものなのできぃくんの名前は12月の異名・黄冬[おうとう]の黄から。彼女の方は最初、暮来月[くれこづき]からクレ子さんにするつもりだったんだけど、クレ子さんは鬼女板のスラングらしいと知ったので忌避。12月の季語・都鳥からミヤコさんにしました。牡蠣も季語です。

遅筆でした。呼吸するように小説を書くんじゃなかったのか。

今回もお題bot様のお力を借りて書かせていただきました。ありがとうございました。