『あなたはどうして・・・私なんかをココに連れて来たの??』

 

目の前にある鏡は私を映すことなく、私のいた世界とは別の世界を映し出していた。

 

「ん??・・・あぁ、そういえば、君を連れて来たのは僕だったっけ??

 そうだねぇ〜・・・あえていえば・・・ヒマだったから・・・かな??」

 

面倒そうにその鏡を見つめながら椅子に座っている彼が、欠伸をしながらそう言った。

 

『そう・・・。で、そろそろ私はここから去らないといけないの??』

 

「よく知っているね。あいにく、他の奴らからさっさと置いてこいって言われてね・・・。

今ここで見ている世界へと行かせようかな??って考えていたところ。

別にどこでもいいよね??もしかして、行きたいところでもあった??

それなら他の行きたい世界をその鏡に映すけど・・・。」

 

彼はサラサラと白い紙に何かを綴っていった。

 

『そんなこと、私がなにか言える立場ではないでしょ。』

 

「それもそうだった。よく知ってるね〜」

 

『人は・・・神と呼ばれるものに縋るけれど・・・

 神は・・・何に縋っていけばいいんだろうね。

 人は、存在しているか分からないものに縋るけれど、存在しているか分からないから・・・それに対して怒ったり、悲しんだりって、我儘に生きているのに・・・神はそれを見てどう思っているんだろうね??まぁ、私は神なんて信じることなどなかったけど・・・。』

 

私が鏡を見つめながら、ポツリとつぶやいた言葉に彼はなにも反応しなかった。

 

「・・・・・それじゃあ、用意はしておいたから。

 あとは、君の好きなようにしなよ。」

 

『ありがとう。“神様”、不器用な優しさを与えてくれて。』

 

白い光と同化していく彼女は、今までの無表情が嘘のように笑顔で消えていった。

 

「・・・・・・彼女は、全て知っていたんだね。」

 

かなしそうに笑い、鏡を見つめていた。

彼女がこれから“生まれてくる”であろう世界を見つめてつぶやいた。

 

 

 

さぁ、始めてみようか

 

(本当は知っていたんだ。僕の犯した罪のことを・・・)(そして、これから自分がどうしていくのかを・・・)(彼女は被害者であったのだ・・・それを謝ることなどできる機会など存在しない)

 

彼女は知っていたのだ。面倒そうにしている僕は本当の僕でないことを・・・。そして、置いてこいって言われているから必死になって“居場所”を作っていたことを・・・。

最期につぶやいていた彼女の言葉は彼の心へと響いていたのだ。

その言葉によって僕は動き出す覚悟を決めた。