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中身が薄い


死にたがり。
ループしてばかりのそれに私は本当に嫌っているようだと思った。左手の親指の爪をガジガジと噛んでループループ。本当は期待してたのだけれど、ああ恐ろしいね、人ってこんなもんです。そんなことをぼんやり考えながら私は人待ち。つま先が弾けてなくなるんじゃないかっていうくらい、じっと見てた。

「早くこーい」

せっかく久しぶりに会うっていうのに気持ちは晴れない。昨日の夢のせいだ馬鹿。携帯で時間を確認してみればまだ待ち合わせの時間まで20分はある。泣きそう。

「・・・お待たせ!」

早く来いって思ったのは本当だけど、タイミング悪いよ。視界がもうゆらゆらしてつま先が滲むわ息が詰まるわ、嬉しいのにこんなんじゃ顔も上げられない。

「あれ?」

「…う、今日はどこに行くの?」
喉の詰まりを堪えて、彼の胸あたりを見ながら口元に笑顔を貼り付けた。涙は目じりに溜まったままだから、バレバレなのはよく分かっている。強がりもいいところだ。ちっとも素直になれない。


「ちょっと」

私よりも20センチ近く背の高い彼は少し笑っていて、でも本当のことは分かっていないようなそんな笑い声を上げていた。いや、私が少しおかしなことに気づいているのかもしれない。私の手に触れる指先が少しだけ冷たいのだ。そしてこう言う。

「久しぶりだから嬉しいんでしょー」

「そりゃそうだよ。そういう××くんはどうなのさ」

「うん。会いたかった。だから見つけたとき飛びつこうと思った位」

「その図体でそれは」

まじめな顔をして言うものだから、私は思わず笑ってしまった。本当に彼は私を笑わせるのが得意だと思う。新しい涙はもう出てこない。目じりの涙が乾いて少し突っ張るような感覚がおもしろい。

「はい、涙拭く!それで俺と手繋ぐの!」

「うん、分かってるよ」

涙を拭く前からもう手を私に差し出して「早く」と急かす。

「今日も可愛いんだから」

「まーた、よくそんな事」

「あ、照れてるー」

「ばか!だから今日はどこ行くの!」

「んー、映画行ってぶらぶらして夕飯は二人で作ろうか。どう?」

夜まで一緒にいれることに嬉しくなって、ありったけの力を手に込めた。でないと走り出しそうだった。

「それで、明日はー」

「え?」

「明日だって暇でしょ?明日のプランも用意してあるんだよ。褒めて褒めて」

「約束してないのに、え」

「色々がんばったから、今日明日はご褒美!だから、明日の夜まで一緒なんだよ。あ、それとも何か予定いれちゃった?」

いや、暇だよね。なんて得意気に言われたら「暇です」としか言えない。そう返事をすれば彼は嬉しそうに笑う。そうして、会えなかった間の話を表情をころころ変えながら上手に話してくれた。


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見える


そりゃ、人間なのだからみんな違うのは分かっているけれど、みんなと同じように陽の光が当たるのが私にはこそばゆい。周りはちっとも私に気づかないのに同じように照らされるのは、そう、こそばゆかったけれど、私はそれでも生きることができた。叫ぶように歌う私の隣に腰を下ろした君は、まるで話すように歌い出した。それは自然なもので。私はいつのまにか泣き叫んで歌っていた。君はそれでも私のほうを見ず静かに歌う。立っている私のワンピースの裾をつかんだこと以外、本当に変化はなかった。


「きっとね。透明人間なんだ。俺らは。社会はこんなに感情の豊かな人を見つけることができない。でも俺は見つけたんだ。透明人間同士だから見つけられたんだ。これってすごいことなんだきっと。奇跡っていうんだよ、なあそうだろ?」

「誰かが淹れてくれたコーヒーと誰かが焼いたクッキーを口にしたとして、胃に溜まるドロドログチャグチャなものは君にしか見えないって事?透明人間さん」

「俺は透明人間さんだから見つけられたんだと思ってる。流石に気持ちとかは分からないけどね。これでも不安?」

「私に姿が見えるっていうことは、そういうことなのかもね。でも、惜しいかな。50点」

「好きってこと。本当に俺のこと見えてる?」


ここまでは、お互いにちぐはぐなメロディーで言葉を交わしていたのだけれど、君があまりにも強くワンピースを引っ張るから思わず、君を見ておかげで歌は終わってしまった。君はこちらを向いているのだろうけれど、でも残念。君の後ろで太陽が笑っているものだから表情が見えない。多分染めているのであろう髪が、太陽の光を吸って金色に見える。肌が透けて見えるようだ。君の言った「スキ」という気持ちが中心で揺らめいて見えるくらいに。


「私のこと見えているの?」

「もちろん、あはは、でも俺らは透明人間だよ。俺にはなんだか分からないくらい、キラキラしているものが君の瞳に映って見えるんだ」

「私にも見える。中心でゆらりゆらり揺れているのは、好きってい気持ちでいいの?」

「もう、戻るのはおしまい。どうなの?」

「  」


満点だと言った声すら透き通っていた。そりゃそうだ。私たちは幸せかな透明人間。


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今日も明日も欠席させて頂きます。



「あれ、また欠席?」

かれこれ2週間は来ていない彼に周りはそこまで興味を示さない。今だって呆れ顔で深い溜め息なんだから。そんな嫌なら出席なんて取らなくていいのに、全部出席でいいじゃない。彼が来ない理由なんて私だけ知っていればいいの。そういう私もここでは無関心を装って周りには適当言って合わせる。めんどくさいなあとか思っていても顔には出さないしそれこそめんどくさいと思うのだ。
彼は今、白い部屋にいる。私たちだけの秘密。こうなった理由はちょっとした武勇伝になるはずだ。彼は優しかった。とってもね。だから子猫を助けようとしてたところを助けたのだ。そうしたらみなさんの想像するように車に挨拶されてしまった。それからは白い部屋の生活。話せないし、目も開かない。閉じ込められてしまったのだ。だから欠席なのだよ。
申し訳なくて泣いた。食事は喉を通らない。昨日は体育祭だったんだって、貧血で休んじゃった。今日はとうとう先生が本当のこと言っちゃったよ。あーあ、ってことで私はあと少しで白い部屋と彼とさよならしなければならないようで。
ねえねえ、伝わっていますか。逃げられないようにした私を恨んでいますか。一度、人に想われたかっただけなの。伝わっているなら…。


彼は今日もこう言った。


今日も明日も欠席させて頂きます。




お題配布元:DOGOD69様

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うそ


"うそつき"だと言われて振られた。そう告白すればその相手は"見る目"ないねと彼は言った。






ぼんやりと窓の外を見ていたら、彼に呼ばれて次の瞬間には視界は真っ暗でただ暖かかった。

そのままで聞いて。
ああ、うん。

耳より少し上から聞こえる声はいつも教室で聞いている声と変わらない。朝早くから一体なんだというのだろう。私がこの時間を好きで誰よりも早くここに来ているというのに。そのことだって、随分前に話したのに彼は忘れてしまったのだろうか。朝が弱いと言っていたのは嘘なのか。

あは、震えてる。
風が吹いてるから。
うん、そうだね。
どうして、いつもこう…
うん、俺にも分からない

そう言って、右腕の力を少しだけ強められた。彼は少し笑い声を漏らした。噛み合っていないような会話に私は涙を飲み込んだ。

あんなに好きだって言ってたのにね
あは、ストーカーでもしてたの?
まさか。



そこから暫く話すことはなかった。少しずつ冷えていく目元を覆う彼の指。緊張しているのがひしひしと伝わってくる。彼が今まで何度もそうしようとしていたのは分かっていたし、いつかそのときが来るのだと感じてはいた。それでも、無視し続けてきた私は酷い女だ。私はきっと彼を失ってしまう事が怖いのだろう。彼の望むことは私の望むことでもある。喉から手が出るほど欲しくて仕方ないものなのに。いつも私の隣にはいなかった。その状況を作ってきたのは私で、彼はいつだって数歩後ろを着いてきてくれていたのだ。どうしようもなく安心していた。
ふと、視界を塞いでいた左手が外された。目がチカチカと痛む。

見える?
ん、まだ霞む。ばか
また拒む?
ずるい。
そっちだってずるいよ


「気持ち分かってるくせに」


ごめんと額をつき合わせて二人笑った。それからはいつも通り。やっぱり私は下手になった嘘を吐くし、彼は悔しいけれどますます嘘を見抜くのが得意になった。

女はもはや末だった


「指を下さい」

その人は今にも倒れてしまいそう。ふらりふらりと妙な揺れ方をして私にそう言った。私はお腹こそ満足してはいるが、胸にはぽっかりと大穴を開けて満足に息さえ吸えていない。まあ、指くらいなら。「何指がお望みですか」嬉しそうに彼女は笑って小さな指ちょうだいと錆びたナイフを寄越した。こんな錆びたナイフじゃあ…すっぱりとはいかないだろうけど、切れるならこれで十分か。
ひんやりとしたコンクリートの上で自分の右手を置き、鋸の様に引いては押した。痛いといえば痛い。ころりと自分のものでなくなった指を彼女の目の前に置いてやる。

「ありがとう」

細めたその目が、あの人にそっくりだったから私は震えてしまった。
彼女は幼かった。まだ中学生位で、細い手足を寒空の下に無防備に晒していた。身なりはそんな生活が長いのかと思わせるものであったが、目だけははっきりと私を捕らえて離さない。帰る場所なんてあってないようなものだから、ここに何時間いても構わないのだけれど。

「おねーさん、彼氏いるの?」

「いるけど」

「帰らなくていーの?」

「別に、心配なんてしてくれてないからいいの」

「ふうん」

そこまで言うと彼女は黙った。

「でも、今少し期待してる。こうやって貴女に指をあげちゃったでしょう?もしかしたら心配してくれるんじゃないかって」

「…あと一本頂戴。そしたら本当にしてあげる」

何が。とかそんなの…もういい。
薬指二本落としちゃおうか。幸いまだ私は彼からも誰からも指輪なんてもらっていない。ぎりぎりと落として彼女に渡せばにっこり笑った。

「…で?」

「こんなとこで、何やってるの」

後ろに立つのは紛れもなく私の彼氏で。こんなに寒いのにジャケット羽織らずにYシャツ一枚で、息を切らしている。どうして。

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