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女はもはや末だった(2)


「いつもなら、家に居るのにいないから」

「心配になったとでも?」

「仕事理由に冷たくしてた。ごめんな」

「勝手…」

「分かってる、愛想つかしてたならそれでいい。そうじゃないなら、この手とって帰ろう」

現金なやつだと自分でも思う。
だって手を伸ばそうとしてる。
でもそこで彼女がクスクスと笑った。


「汚い汚い。そうやって気を引こうとするなんて」


手を隠した。
自力で立つ。でも彼はいつも目敏い。すぐに私の変化なんて気がついてしまう。
無理に取られた手が月明かりに照らされる。血の滴る三つの空き部屋。満たされていなかった私は後悔なんて羞恥なんてないと思っていた。それが、今はどうだ。彼の存在一つで満たされてしまった私は酷い後悔と羞恥を感じていた。今すぐこの手を彼の目に届かないところにやってしまいたい。

「ね…どうしたのこれ」

「や、やだやだ」

「どうしたの」

彼の視線が私を貫く。

「この子が、ゆ…指をって。だから、だからあっ…ごめんなさいごめんなさいごめ」

彼の視線が彼女に移る。彼女はケタケタ笑う。彼は固まる。動かない。彼の手が震える。
私はもう膝は恐怖でがくがく笑っている。


あの日のことは夢である。と信じたい。信じたい。信じたいけれど、隣には彼がちゃんと居る。私の指だって、あの日からない。あの後、私は彼に引かれるまま家に帰った。乱暴にベッドに投げられて、夜が明けるまで抱きしめあっていたのだ。朝になると私の声は枯れてしまっているし、彼の目は真っ赤に腫れてしまっている。そんな様子を見て私たちは笑ったのだ。



彼は一言も私を責めませんでした。
薬指にはめられない指輪は代わりに小指に。




指は事故でなくなった。
あの日のことはやっぱり夢だったのだと二人で納得することにしました。
満たされないなんて思ったら、素直になることが一番だと。欲を張ってはいけないのだと

ねえ、どうしたらいい?


「最近の夢はやたら私に厳しくあたる」
私が何かした?と問いかける表情は相当参っている様だ。時々みせる彼女の弱さは結構私にはどうしようもないことばかりだったりする。
「夢だとはっきり分からなくて、すっごい現実色が強いんだよ」
「最近疲れてるんじゃない?疲れてると夢見やすいって言うし」
「んー、そうなのかなあ」

彼女は疲れとか我慢とかに鈍感である。こうやって私が指摘しようとも半信半疑なようで、すっぱりと認めようとはしない。目の前の彼女は、眉間に皺を寄せて組んだ腕の上にあごを乗せて考え込んだまま。答えを導き出したい問題が私が思うよりもたくさんあるようだ。
「どれだけ考えてるの?」
「…暇があれば?気づいたら考えてる」
「それは楽しいことばっか?」
「最近はそんなことないな。悪い方にばっかりだよ」
あー、私らしくない!と言って、今度は腕に顔を埋めてしまった。相当参ってるなあ。どうしようか。彼女は本当時々扱いにくい。それになぜいい言葉も返せないだろう私に話すのか理解できない。以前そのことについて問うと、「なんだかんだ最後まで話聞いてくれるじゃん」と何当たり前のこと聞いてるのよと言わんばかりの表情で返された。彼女は返事云々より最後まで話を聞いてくれる、ということの方が重要らしい。
「…最近、話聞いてるとさ」
「うん」
「私じゃ、むりかーって負けそうになる」
篭ってしまって聞こえにくいと、少し顔を近づけた。
「それで、あー…そういう夢みるじゃない?余計に、辛くなる」
「へえ、そういうこと思ったりするんだ」
「思うってば。でもさ」
ばっと上げた顔。少しだけ涙が滲んでいるように見えた。
「やっぱり好きだっていう結果に行き着くんだよ。ねえ」
そこで見たのは、悪戯に笑う彼女だった。あー、結局こうやって自己完結。それで無理していないようだから凄いと私は思う。そして別のことでまたこうやって話してくる。力になれているようなら、私は幾らだってこの先も彼女の話を聞きたい。




「ねえ、どうしたらいいかな?」



意地悪いなあ。

ばかりの卒業

さよなら、だって。
私の耳にはなんの意味もないただの音としてそれは入ってきた。
ああもう会えないんだ 姿を追って想うことができないんだと実感してうっかり帰り道立ち止まってしまう。こんなこと考えるなら、誰かと一緒に帰ればよかった。夕方にまた会うからなんて一人にならなければ良かった。この一年で何度時間を戻したいと思ったことだろう。今がその何度目を更新したところで。
膨らみ始めた桜の蕾が風に急かされる。それでも私の足はちっとも動きそうにない。通りすぎる人も車も私を見ていく。
そこで少し風が治まって、私はふと向こう側にある人を見つける。目の前にだっていつの間にか来たのだろうか一人。二人は時間が止まったかのようにぴたりと止まっていて、私の時間ばかりがどうしようもなく無駄にゆっくりと動いているように思えた。
ここで、答えを出せと
昔と今 さよならしたばかりだというのに。

選択肢は三つ。
答えは一つ。だってほら、私の心はいつも矛盾だらけでしょう。
半年の恋だって、ここで終わりなんて認めてない。
目の前はもうずっとさよなら。青になった信号渡って、震える心臓抑えつけておおきく深呼吸。心の準備?そんなもの知らない。そんなこと待っていたら、あっという間に大人になってしまうよ。
はやく 早く はやく

(好きなの)


夢はいつも残酷で。
予知夢の強い私でも、この夢ばかりは信じられない。何度見ていたって。その先を見ていたって。いつだって恋は私を弱くする。なにも信じることができなくなる。目の前のことすら、信じられなくなる。でもこれが現実になるのなら、と信じれば私の小さな掌に乗るくらいの勇気は湧いてくるのか。なにも予想のつかない、期待のない恋なんて知らない。
今日だって眠りについたら、覚えていられないような幸せな夢を見るのかもしれない。破片だけでも拾っておきたいけれど、そんな強い精神は持ち合わせていない私はただ現実を見ていくしかないのかもしれない。

逝くのと生きるのは いっしょ



いっしょにいたら、しずんでいくんだよ
それでもいいの?


いつの間にか、舌足らずになった高校時代からの友人。言い方の柔らかさからは想像できないくらい鋭い目を向けて自分を突っぱねた。髪は血に染めたように真っ赤だ。今の友人の様子から嫌な想像がついてしまうのが、昔のことを思うと申し訳なく感じる。


ねえ、きいてる?


つり目気味の目を細めて、穏やかに口元を緩めて笑う姿は変わっていなくって。思わず溜め込んできた想いが零れてしまいそうだった。控えめに首にかけられた白い手に、儚く見えるその笑顔に、自分より小さい身体に


ねえ、
ねえ、


込めようとしても力の入らない細い指を絡め取る。
他の人から見たら、なんの変化も見られないのだろうけれど友人は今驚きの表情で自分を見上げている。


ねえ、分かりもしない死後の世界とやらに一緒にいくのと、
先もわからない意味のない運命を引きずって一緒に生きていくの
どっちがいい?


やっぱり一緒に生きていきたいと思ってしまった。


いっしょに いきていきたい


小さく呟いた。その友人に安堵して、


じゃあまずは、その真っ白っけな肌と、真っ赤っかな髪を直そうか。


うん





自分はそれでも遅くなんかないと思うんだ

しちがつここのか

ひとりの夜が嫌いだ
剥がれた仮面の貼り付け作業になるこの時間がたまらなく嫌いだ。それをやらなければ死んでしまいそうになってしまうのだから嫌も何もないのだろうけれど嫌いだ
置いていかれる不安と追いかけても縮まらないようなこの距離が怖くて少しでもそばにいようと、こうやって仮面を張り付けて地に付いていない足に何処かにいってしまうような力を入れる


此処にいる

という確証がただ欲しくてやっている自己満作業
それでも満足のできない私は声も出ないくらい小さな痛みと手当ての必要のないような傷をつけることしか方法がわからなかった