話題:SS


 パチリと目が醒めた彼女。次の瞬間、ベッドから飛び起きるや否や期待と不安の入り混じる足取りで階段を駆け降り、玄関の扉にかじりついた。そしてほんの一時鍵と格闘した後、外へ飛び出した彼女はポストへ駆け寄り、中の物を見た瞬間歓喜の表情を浮かべて、そしてがっくりと肩を落とした。
 興味なさ気に手紙をつかみ取ると、先程とは打って変わって重たい足取りで家の中に入った。リビングへ顔を出し、誰も居ない部屋へ向かって適当に手紙を投げつけると、さらに重たくなった歩みで階段を上がっていった。
 それだけの事なのに余程疲れたのか彼女は倒れ込むようにベッドに身を投げ、めんどくさそうに掛け布団を掛けると再び目を閉じ、たちまち寝息を立て始めた。
 返事を待ち続けてかれこれ一ヶ月が経った。離れ離れになっても一週間ごと交代で手紙を送ると、彼と約束をした。彼女の闘病と、彼の勉学のために距離を置こうと納得するまで話しあってから一年、破られることなくこのリレーは続いてきた。だが、必ず返事を送ると約束した彼からの手紙は、しかし今回はいつまで経っても来ない。破られる事の無かった法則は、彼の音信不通という形で崩れることになった。



配布元:SNOW STORM
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