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【朔の日】*犬かご

「なんだよ?」
 先程からずっと、黙ってこちらをまじまじと見ている女に、眉根を寄せて問いかけた。何度も遭遇している姿だ。今更驚いているわけではあるまい。

「その…すっごく久しぶりで…そっか、いつもと違うんだなって」
 一瞬キョトンとしてから、はにかんだように笑う。
 以前、この姿で一緒に過ごした時は、彼女は今の巫女装束ではなかった。
 改めて自分の手を見れば、普段は鋭い爪がなく、嫌でも非力さを思い知らされる。
 守りたいものも守れないかもしれない頼りなさに、舌打ちしようとした時。

「なんか…ドキドキする」
 かごめが小さく溢したその言葉で、犬夜叉の思考が止まった。

「は?」
「な、なんでだろう?おかしいよね。何度も見てるのに」
 彼女の顔も、耳までも…真っ赤だ。

 かごめが戦国時代に戻ってきて、こうして一緒に暮らしはじめて。
楓の家ではない。仲間もこの場には居ない、二人きりの屋根の下で…。

「前と変わんねぇだろ!」
 変に緊張してしまって、思わず正座になる。
「そ、そうなんだけど…」
 奈落はもういなくて。村にいる分、旅をしていた時のように妖怪に襲われる危険は少ない。
 だから、犬夜叉がいつも以上に気を張る必要はないのだ。

「前に言ってたじゃない?朔の日に眠ったことないって」
「……」
「本当は休んで欲しいけど…いきなり変えるのは難しいだろうから。犬夜叉が寝ないんだったら、私も一緒に起きとく」
 って言っといてうたた寝とかしちゃったらごめんね、と悪戯っぽく笑う。

「無理して付き合うことないんだぜ」
「いーの。私が起きときたいの」

 こうやって一緒に過ごせる時間を、かごめの些細な言動を、何より大切に思えるのは今だからだ。

 ここでありがとうとか伝えられたらどんなにいいか。

 言葉に出来ない歯痒さに任せて、手を伸ばす。

「犬夜叉?」

 あたたかい。
 安心する。
 かごめの匂い。

「ちょっと、くすぐったい…っ」


 普段なら、力任せに抱き締めたら壊してしまいそうで。
 無意識に加減する。
 でも今なら。
 同じ人間の…非力な今なら…。 

 ぎゅう、と力を込めてみる。





*****
朔の日は犬かごのラブ度が高めで子どもながらにすっごい好きだったなぁ。
てか恥ずかしいこれやっぱ。私が書くと犬夜叉が女々しくて素直で恥ずかしい。
でも犬かごかわいい。かわいい。大好き。
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