雌蜘蛛の掌
砥 聖正の憂鬱+α。*

20/05/25 23:38 Mon*



Today's Character:砥




うちの母親はいつも自分の両親のことを酷い親だったと言っていた。
会ったこともない祖父母の愚痴を俺はガキの頃から聞かされていた。

でも、父親の話は一度も聞いた記憶がない。

俺の母親は今の俺よりも若い時に俺を産んで、それから女手ひとつで俺を育ててくれている。
それがどんなに大変かは、あのひとの愚痴を聞いていれば分かる。

俺の所為で学校を辞め、俺の所為でまともに働くこともできず、俺の所為で自分の両親にも見放され、独りで生きていくことさえ大変な人生を俺の分まで背負って育ててくれた。
そのうえ、俺は不自由なく高校にまで通うことができている。

恵まれている。愛されている。


普通に考えればその通りだ。


だけど、俺を生かしてくれているその金は、あのひとが汚い手を使って手に入れた金だ。

あのひとが、男を騙して手に入れた金。


あのひとは男を手篭めにするのが上手い。
騙される男を見極める嗅覚も鋭い。
天性の男タラシ。

詐欺まがいの方法で男どもから金を巻き上げ、都合が悪くなる前に手を引く。
寄生するように男に依存して、旨みがなくなればあっさりと手のひらを返す。

そんなんだから当然恨みも買うが、被害者面で逃げるのが上手いあのひとは、無傷でひっそり舌を出す。
代わりに俺が男達に殴られる。

知らない相手ならまだしも、ダチの父親やクラスの担任にまで手を出すから、俺の居場所はどんどんなくなっていった。

あのひとと居ると息が詰まる。
それでも俺はあのひとから逃げられない。

あのひとが俺を捨てないのは、いつか誰にも相手にされなくなった時に自分を養ってくれる担保がほしいからだ。
だから例えどんな不良高校であっても俺を卒業させたいし、できればコネを使ってでもいい就職先を見つけたいと思っている。


そんな中で、白菊高校は俺が母親から逃げられる唯一の場所だった。

あのひとに管理されない俺だけの居場所。
白菊高校なら、あの女の餌食にされそうな人は居ないから、気楽に仲間を作れた。

そこで出来た俺の仲間。俺の縄張り。俺の居場所。


なのに、少し入院している間に後輩のスウィープ・ファングに荒らされていた。
俺のたったひとつの居場所だったのに……



だから

仕返しにスウィープ・ファングの女を潰してやろうと思ったんだ。

どうせ男の権力を傘に着て調子に乗っている勘違い女なんだろうと思っていた。
俺の周りに近づいてきた女も皆そうだったから。所詮は金と力と欲求不満の解消が目当てなだけだ。
女が男を道具としか見ていないなら、俺も女にそうしてやる。


なのに、スウィープ・ファングの女は、あの“花姫”だった。


*
* COMMENT(0)



。* PREV NEXT *。
゚★ BACK ★゚





-エムブロ-