謝った。
砥 聖正の憂鬱+α。*

20/05/26 18:49 Tue*



Today's Character:砥




「誤解してて悪かった……」


勝手に鷹森を誤解していた。
何度“誤解だ”と言われても、それを受け入れる気にはなれなかった。

花姫は俺の運命の相手だと思っていたんだ。
ろくでもない母親の所為で女という生き物に嫌気がさしていた俺にとって、唯一信じられる気高い存在だった。
だからスウィープ・ファングの女が花姫だった知ったとき、裏切られたと感じてしまった。

花姫が夢の中の人物だなんてことはわかってる。
頭では理解していても、花姫にソックリな鷹森を前にすると心がざわめきたった。

花姫を守るのが俺の仕事だ、なんて夢の出来事に引きずられて、変な連中から鷹森を救ってやった。


なのに、花姫は俺を蔑ろにしたんだ。
夢の中では絶対になかった光景だった。
その事実に愕然とした。

やっぱり花姫なんかいないんだ、と。

腹が立って仕方がなかった。
花姫と同じ顔で、花姫を否定した鷹森が許せなかった。

そんな俺の誤解を解こうと必死なヤツがいた。

富井だ。
熱心に鷹森のことを語る。

『夕凪さんはそんな人じゃない』
『夕凪さんはそんなこと考えていない』

夕凪さん、夕凪さん、夕凪さん……

その姿が、母親に誑かされる哀れな男たちと重なった。

このままじゃ富井が食いモノにされる…
だから、富井や他の男たちが鷹森夕凪の餌食になる前に俺がなんとかしなきゃいけないと思ったんだ。

鷹森の本性を晒して、滅茶苦茶に潰してやりたかった。

もちろん、鷹森夕凪の本性なんてない。
鷹森を勝手に勘違いして、勝手に舞い上がって、拒まれて、勝手に傷ついて、傷つけたのは俺だ。
鷹森が悪いわけでもない。ましてや裏切られたなんてとんでもない。
鷹森のことをもっとちゃんと知っていたら、あんなことしなかった。出来るはずがなかったのに。




「それ、夕凪さんに言ってください」

富井が俺にキツイ言い方をするのは、相当怒っている証拠だ。
今までのことは俺の誤解で、鷹森を酷い目に遭わせたことは間違いだったと認めたのに。


「……もう言った」

俺がそう言うと富井は驚いた顔をした。
そんなに驚くことか?

「鷹森に謝ったら、富井のことも巻き込んだんだから富井にも謝った方がいいって言われたんだ」

少し前までの俺なら、こんな風に指図されたらメチャクチャ腹を立てていたに違いない。
けど、何故だか知らないけど鷹森の言葉がすんなりと入ってきた。
そして気付かされた。
富井の言葉にもこうして少しでも耳を傾ければよかった、と。
今まで俺を叱るヤツなんていなかったから、叱られるということがどういうことだか、わかっていなかったんだ。
もしかしたら今まで指図だと思い込んで腹を立てていた周りのヤツらの言葉の中にも、俺への忠告や助言があったのかもしれない。


「……夕凪さんと会ってるんスか? 夕凪さんに惚れてないッスよね?」
「は?」

急に富井が変なことを言い出した。

「だって、今まで誰が何を言っても聞く耳を持たなかった人が、夕凪さんに言われたからって俺に頭を下げるなんて……ダメです、夕凪さんは渡せません」
「バッカじゃねえの! お前と一緒にすんな!」

忘れてた。
コイツ、鷹森に盲目的に惚れ込んでいたんだった。

「だったらいいですけど」

「……。」


ホッとする富井に、夢の中では俺と鷹森は運命のパートナーだったって話をしたらどんな顔をするんだろうな。


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