雌蜘蛛の罠A
砥 聖正の憂鬱+α。*

20/05/24 19:19 Sun*



Today's Character:砥



『上々よ』


そう言ってニタリと笑った母親の口元が目に焼き付いている。



鷹森さんが大丈夫だというから、会わせたけど、あの女の笑顔を思い出すと不安になる。


『キヨくん…?』

昨日、鷹森さんに送ってもらった俺の後ろから、わざとらしい声で母親が駆け寄ってきた。
いかにも夕飯の買い物から帰ってきましたって風を装っていたけど、買い物なんかしていない。この女は、俺がちゃんと鷹森さんを連れてくるか車でずっと見張っていたんだから。
異常だろ。


『すみません、うちの子が何かご迷惑をおかけしました?』

俺が知らない男の人といることに心配と不安を感じてるような素振りで母親が眉を下げる。
この顔に騙されるな、鷹森さん。


だけど俺の不安を他所に、鷹森さんはごく冷静に首を振った。

『いえ、先日ご子息にうちの息子を助けていただき、そのご挨拶がまだだったので、夜分にご迷惑かと思いましたが立ち寄らせていただいたんです。よかったら、コレ、召し上がってください』

鷹森さんに菓子折りを渡されて、一瞬だけ母親は拍子抜けしたような顔をした。
あの人的には補導のことを言って欲しかったんだろうな。“俺の反抗期”という手札で繋がろうと考えていたに違いない。
けど、その話題はもう使えなくなった。


『まあ、それでわざわざ……?』

会話が広がらず、俺は内心笑った。
なのに、あの女はめげない。


『あの、立ち話も何ですから、よろしかったら中でお茶でも……』

これ以上、何の話をするんだよ?
純粋を装ってババアが鷹森さんを家に招き入れようとする。
頃合を見計らって俺には出て行けって言うのが空気から伝わる。


『いえ。今日は失礼します』

鷹森さんは律儀に頭を下げて、そのあと俺に笑いかけた。


『じゃあね、砥くん。おやすみ』

最後にもう一度母親に会釈をして鷹森さんは車の方に向かっていった。

正直、母親はもっと鷹森さんを引き止めると思っていた。
何かがモヤモヤする。

これで終りとは思えない。


『上々よ』とほくそ笑んだ母親の顔を見てしまったから……


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