雌蜘蛛の罠@
砥 聖正の憂鬱+α。*

20/05/23 20:38 Sat*



Today's Character:砥




「鷹森さん、わざわざ来ていただいてすみません」

交番のおまわりが鷹森さんに頭を下げる。

「彼がコンビニの前にずっと居座ってる所為で、他のお客さんが怖がっていると苦情の電話がありまして……。ところが、鷹森さんじゃなきゃ話したくないの一点張りで、困ってたんです」
「そうでしたか。わかりました、ご苦労様です。あとは私の方で引き取ります」


まさか本当に来てくれるとは思わなかった。
夕凪から俺の話聞いてるだろうし……

これがあの女の罠だって気付いてるのなら無視してくれればよかった。


“あんた、補導されてきなさい”

親が子供に言うセリフじゃないことを平気であの女は言う。
俺は従うしかないから、おまわりを呼ばれる程度に適当に時間を潰した。
鷹森さんが俺を無視してくれれば、俺はあの女と鷹森さんを引き合わせない口実ができたのに……


鷹森さんがここに来るまでの間、交番のおまわりが鷹森さんと不良少年たちについての話をいくつか俺に零した。
俺の他にも鷹森さんをご指名の不良たちが何人かいるそうだ。
で、たぶんその中の一人はスウィープ・ファングっぽいなと思った。
呼ばれたら断れないのか?
どれだけ面倒見がいいんだよ。


「送るよ、砥くん」

鷹森さんが俺の歩き出すのを待っていてくれる。



行きたくない。
行けばこの人を巻き込んじまう。

俺は昔もこうやって……



「夕凪から話は聞いてるよ。心配しているのはそのことかい?」


俺は頷いた。

俺は、小学校の時にもわざと補導されて担任を呼び出し、あの女と引き合わせたことがある。
当時の担任がどうなったかはうろ覚えだが、うちの母親が原因で遠くへ引っ越した認識はある。

俺がこれからするのはそういうことだ。

腹を空かせた雌蜘蛛の巣へ、美味しい獲物を届ける役目。


「君は何も心配しなくていいよ」

全部知っているのに、鷹森さんは穏やかな口調で俺の肩を叩いた。


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