魔女の獲物
砥 聖正の憂鬱+α。*

20/05/19 18:36 Tue*



Today's Character:砥




「誰か来んの?」

この家に温かい料理が並べられてるのなんて、ガキの頃まで遡ったって記憶にない。
俺の母親は料理が上手い方だがその料理が俺のために振舞われたことなんてほとんどない。


「誰も来ないわよ。あんたに作ったの。唐揚げ好きでしょう?」


は?
どういう魂胆だよ。

そんな見え透いた嘘をいちいち真に受けて喜ぶほど、俺は子供でも無邪気でもない。


「それに、この間は怪我させちゃったじゃない? 大した怪我じゃなかったけど、これでも一応悪いと思ってるのよ」

これも白々しい。

昔から気に入らないことがあるとすぐ手が出るこのひとは、罪悪感なんて1ミリも感じちゃいない。


「仲直りしましょ」
「仲直り?」
「そうよ。それで、キヨくんはママのお手伝いをするの」


手伝いっつっても、後片付けや皿洗いなわけがない。


魔女みたいだった派手な爪を外して、髪色も落ち着いたトーンに変えた母親。

これは新しい獲物が見つかった証拠だ。



つまり、援護をしろということ。


相手は言わずもがな。


「勘弁しろよ。アッチは奥さんも子供もいるんだぞ?」
「なによ! 私が幸せになっちゃダメなわけ?」
「だからって他人の家庭に手ぇ出すなよ……俺の大切な…仲間のダチなんだ」

ガシャン!


シンクに乱暴に皿が叩きつけられる音がする。
この耳を割るような音が昔から大嫌いだ。
そしてその音以上に嫌いなのが……

「あんた、母親のこと何だと思ってるの? 何が仲間よ! そんな他人なんかよりも、実の母親の心配しなさいよ! あんたをここまで育てて面倒見てきてやったのはあんたの下らない仲間なんかじゃなくてこのアタシなのよ!」

ヒステリックな母親の怒鳴り声。
キンキン声で喚き散らしながらテーブルの上の料理をひっくり返す母親は俺を惨めな気持ちにさせる。


「私が上玉の男を手にしたら、あんただって嬉しいでしょ?」

父親が出来て嬉しいなんて年齢はとっくに過ぎた。
いつまでも女盛りの母親を見ている方が気持ち悪い。

「しかも警察官だなんて、とっても使えると思わない? 味方につけたら色々と都合がいいし、あんただって就職先の面倒見てもらえるかもしれないじゃない。幸い、向こうには恩を売ってあるわけだし」

……ヤメロ、聞きたくない


「そんな顔しないでよ。ママ、一目惚れしちゃったんだから、助けて?」
「一目惚れ? そんなん、いつ会ったんだよ…」
「あんたの怪我の診断書持って会いに行って来たのよ。おたくの息子を助けた所為でうちの息子が怪我をしたって、慰謝料ふんだくりながらジワジワと手懐けるつもりでね」

は?
これはあんたが俺を殴った怪我だろ?

「でも、実際に見たら、会う前に帰ってきちゃった。だってすごくいい男だったんだもん。確実に落としたくなっちゃった」


だからケバい化粧を止めて、地味で家庭的な女を演じるのか?

あの人がこんな女に騙されるとは思わねえけど……、



絶対に迷惑かけたくない。


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