呼び出しと待ち合わせ
ラウト+χ+α編。*

20/05/21 17:18 Thu*



Today's Character:夕凪





「久しぶり」
「稔さん!」

声を掛けられて、俺は慌てて立ち上がった。
わざわざ来てもらったのは俺の方だから。と言っても、会いたいと言ってくれたのは稔さんの方なんだけど。
直接会って言いたいことが沢山あったのに、俺は意気地がなくて全然連絡ができなかった。


「隣、いいか?」

俺は頷いて、ベンチのスペースを大きく開けた。

「ほんとはめちゃくちゃ抱きしめたいけど、指一本触れねえから安心して座れよ」

だきっ……

「ごめん、こんな冗談笑えないよな」
「違っ、違うんです」

動揺してしまった俺に、稔さんが申し訳なさそうに謝る。

「あの、俺、なんか今日はすごく緊張してて、だから変な反応しちゃっただけで、大丈夫です! 冗談だってわかってますし、反撃の覚悟もできてますから」
「反撃かよ…、まあ当然だけど」

ヒマさんと匡志くんに言われたんだ。
全員をジンさんだと思うくらい警戒した方がいいって。

だから、稔さんとの待ち合わせも寺杣総合病院の中庭にしたんだ。
二人きりにならないところ。程よく人目があって、味方がいるところ。
ここなら、バラ園に続くこの庭なら“あの人”の存在を強く感じるから何があっても怖くない。


「じゃあ、本題に入るけど……」

そう言った稔さんは、改まって俺に体を向けた。


「チアキのこと、本当にすまなかった。謝って済む問題じゃねえけど、俺がちゃんと…」
「待ってください、違います……謝るのは俺の方です。約束を守れませんでした。皇王を見捨てないって言っておきながら、俺は皆さんの大事な皇王を突き放してしまいました……皆さんから奪ってしまいました。本当にす…んむっ」
「夕凪、それ以上言ったら手じゃなくて口で塞ぐぞ」

少し怖い顔で稔さんが俺の口を塞いだ。

怒った理由は少しわかる。
俺が自分を許せないと吐露するたび、それを聞く人は怒ったり悲しそうな顔をしたりする。

だけど、稔さんの手を剥がして、頭を下げる。


「謝りたいんです、稔さん……お願い。謝らないとずっと心が痛くて痛くて……。身勝手だけど、俺がスッキリするだけなんですけど、謝らせてください」

俺の所為じゃない
俺にはどうしようもないことだったんだ……って、

そんな簡単に割り切れない。
俺に全く責任がないわけじゃないんだから。

泣かないことに精一杯で、喉が締め付けられる。
ちゃんと喋れ、俺! 情けない。


「わかった。謝罪は受け入れる。だから俺にも謝らせてくれ。チアキを任されたのは俺なのに夕凪に押し付けて悪かった。アイツの異変に気付いていたのに止められなくてすまなかった」

稔さんが俺の手を握り返してくれる。
強く握られた温かい手から、稔さんの真剣な想いが伝わる。

「押し付けられたなんて思っていません。前にも言ったかもしれないですけど。俺が皇王の友達になりたかったんです」
「そっか……ありがとう、夕凪」
「こちらこそ、ありがとうございます」

お礼を言われることなんてないのに、なんか急に恥ずかしくなって緊張した手が稔さんの手をキュッと握り締めてしまった。


「……ッ、夕凪、」
「お待たせしました」

「「うわぁっ!!」



ビックリして俺も稔さんも跳び上がった。

「……砥さん!」

……何で?


「お前……どう考えても今じゃないよな?」
「何がスか」
「うっせぇ」

驚いて固まったままの俺に、稔さんは困ったように笑って説明してくれた。

「ごめんな、夕凪。今日は俺が夕凪に会いたかったってのが一番の理由だけど、コイツもお前に話があるみたいだから呼んだ」
「話、ですか?」

砥さんを見たけど、砥さんは気まずそうに斜めを向いたまま目を合わせてくれない。


「夕凪のこと傷つけたくないんだろ? だったらホラしっかりしろよ!」
「ちょっ…! な! そんなこと……!」

稔さんが変な急かし方をするからだと思う。
砥さんは真っ赤な顔で稔さんを振り払った。
そしてゆっくりと俺に視線を上げてくれる。


「……話がある」


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