こんにちは、natsumeです。
拍手ありがとうございます!><
スランプに陥りすぎてもうガッタガタですがよろしければどうぞ…
ブログのヘッダー部分のHPもリンク切れしてたので直しました。
あと、暗かったので背景色も変えてみました。
前編です。
そしてなんかの話の続きです。たぶん。(力尽きなければ…)
単品でも読めます。
前半は闇表がうどん作って食べるだけ
後半は最強のクリエイターVS最強のプレイヤーはどっちが強いのか戦争
・ほぼCP要素ないんですがのちのち闇表になるので闇表
・まだお互いあまり意識してないのでわりと下品な話とかしてる
・二人でルームシェア同居人
・高校は別で二人とも20歳別体
・王様が料理とかしてる(うまいぞー!)
よろしければどうぞー
「七月も下旬、夏本番に向けて暑さ対策が重要になってきます。本日の最高気温は38度。真夏日となりますのでお出かけの際は十分にご注意下さい」
壊れたエアコンの蒸した室内で、淡々と告げる天気予報にうんざりしたのはオレだけではなかった。
「その気温、昨日も聞いたよー…」
色も恋もない男二人のルームシェアで、先に音をあげたのは同居人だった。
「昼飯、冷たいうどんでいいか?」
リビングのテーブルに突っ伏した相棒に台所から問えば、さいこー、とくぐもった声が返ってくる。
エアコンの修理業者が来るのは来月。それまでこの灼熱地獄を耐えなければならない。そんな哀れな野郎を見兼ねたのか、申し訳なさの表れなのか、大家からは桐の箱に入ったうどんをもらった。
「城之内くんがさー、アテムにばっかり料理させてないでお前も手伝えってさー」
城之内くんは、高校の時の相棒のクラスメイトだ。気さくでフランクな彼は誰にでも分け隔てなく、この家にも何回か来たことがある。オレは、鍋に水を張りながら、へぇ、と相槌を打つ。
「それでなんて言ったんだ?」
鍋を強火にかけ、買ってきたままになっていた茄子をスーパーの袋から出す。
「城之内くんは知らないんだよ、アテムがこんなに料理上手だってさー」
うちに来たときも食べてたはずなのにね!と怒る相棒を、酒が入ってたからしょうがないぜ、と言って宥める。台所にハサミを置く習慣はないので茄子の入ったビニールは包丁で裂いた。
「プロゲーマーから料理人に転職する日も近いかもね!」
まさか、とオレは笑う。
「100億詰まれてもやらないぜ」
「えっ、100億だったらやりなよ」
「100億払ったら相棒はゲームクリエイターから料理人になるのか?」
「や、ボクはならないけどさー」
他愛のない話をしながら焼茄子を作る。
「ていうか、こんなハイスペックなのになんで彼女いないのかな?」
うどんを煮ている間に、冷蔵庫から出した麦茶をコップに注ぐ。
「とっつきづらいからだろ」
「えー、そうかなぁ」
「伊達に20年生きてないぜ、何度も言われた」
相棒が、ボクも麦茶、と言うので、新しいコップに注いで持って行った。
「相棒はたまにズレてるからな」
「どこが?」
「オレと仲いいとことか」
「えー、アテムといるのは楽しいよ」
「じゃあ付き合ってくれんのかよ」
「えぇ…うーん、うーん…」
割と真剣に悩んでくれるんだな、と相棒の可愛らしい反応に、思わず頬が緩む。さて、そろそろうどんがいい頃合いだな。オレは台所に戻って火を止める。そこで相棒をからかう言葉を思いついて、くくっと笑った。
「もしオレと付き合うなら相棒がネコだぜ」
「猫ってなに?」
「ベッドで突っ込まれる方」
「ぎゃ!」
茹で上がったうどんを水にさらし、皿に持ったうどんの上に、きゅうりと茄子、揚げ玉を乗せて、めんつゆをかける。
「わ!うまそーだぜー!」
あ、逃げたな、相棒。
「あー、やっぱりアテムの料理おいしー!」
ずるずるとうどんを啜る相棒が微笑ましい。男二人で暮らしているくせに、時折、この平和な生活がずっと続けばいいと思ってしまう。だが、オレと相棒を縛るものはなにもない。プロゲーマーとゲームクリエイターという利害が一致しているだけで、オレたちを結びつける繋がりは、他にはないのだから。
日毎、企業参画型の形で執り行われるイベント。その小さなブースで、ボクは自作のボードゲームを出展していた。費用はかかるけど、どこか企業の目に留まればと、ここにくるまでは淡い期待を抱いていた。だけど、様々なバーチャル映像が投影される会場内に、時代はeスポーツ戦国時代なのだと現実をたたき付けられた。
いまどきボードゲームなんて流行らないか…。
そう考えて、早々と切り上げようとした時だった。
「ボードゲーム?」
誰かがブースの前に立った。
「あ、はい…でももう帰るんで…」
ボードゲームなんて古臭い。コマ遊びなんてオワコン。カテ違いも甚だしい。などなど、開始早々からぺちゃんこにされた心が、早くも蔑む言葉に身構え、ボクは帰り支度に手を動かした。だけど、
「面白そうだな、やろうぜ!」
その人はそう言って、ブース前に設営したスペースのパイプ椅子に腰掛けた。
「え!?な、なんで!」
驚くボクに、ゲーム売り込みにきたんじゃねーのか?とその人も瞬きをする。いや、まぁ、そうなんだけど…。
「ならさっさとルールを説明しな!」
ぶっきらぼうで高圧的だけど、その顔はとても楽しそうで、新しいゲームとの出会いに打ち震える喜びがこちらにも伝わって来るようだった。
ボクの説明に、ゲームルールを理解した彼が、始めるぜ、とダイスを握る。器用に10面ダイスの転がす手の平にずぶの素人じゃないと悟った。
「舐めてかかると負けるぜ?」
挑発的な物言いにごくりと唾液を飲み込む。大丈夫。ボクはこのゲームの開発者だ!少なくともこのゲームの初心者より!初心者、より…初心者……より…?
「う、うそ…ボクが、負けた…?」
そんな、開発者であるボクが……負けた……?!
「いいゲームだな!」
心底楽しそうに顔を綻ばせる彼に一瞬面食らってしまう。ゲーム中の彼は真剣そのもので、勝ちを譲らないスタイルは、一種の戦慄めいたものすら感じた。
「そ、そんなに楽しかった?」
恐る恐る聞くボクに、彼は、ああ!と迷いなく断言する。
「戦略性、創造性、難易度、どれをとっても申し分ないぜ!」
負けちゃったけど、純粋に楽しんでくれた事実が嬉しくて顔が緩んでしまう。単純だけど、作ったものを褒められるというのは開発者冥利に尽きる。だけど、彼の言葉には続きがあった。
「だが、このゲームには欠点がある」
欠点。その悪魔の言葉に浮かれた気分が一瞬で地の底にたたき付けられる。クリエイターにとって、それは避けては通れない課題だ。進化や変化を望むなら、己を知らなければならない。だけどそれは、今までの価値観を揺るがしかねない諸刃の剣だ。
「いや、難しい話じゃない。これを作ったやつにどうこういう気もないぜ」
しかし彼は、存外軽くあしらって言った。
「最強の矛と最強の盾ってあるだろ?」
どっちが強いかって話?と首を傾げれば、そうだ、と彼も頷く。
「オレが勝てるゲームってとこがこのゲームの欠点だ」
つまり、この場合、最強の盾は最強じゃなかったってことだな、と彼は言った。
「つまり、プレイヤーが矛で、クリエイターが盾?」
改めて確認するボクに、まぁ持論だけどな、と彼は付け加えて、そういうことだ、と肯定した。
「粗いゲームほど必勝法や抜け道がある。その中でプレイヤーをどれだけ対等に競わせるかが盾の腕の見せ所だぜ」
ワンサイドゲームじゃ楽しくないからな、と彼は立ち上がる。
「よっぽど練らないとこのオレは倒せないぜ?」
そう開発者に伝えてくれ。そう言い残して彼はステージの方へ歩いて行ってしまった。
「プレイヤーを、対等に…?」
ボクは盤面に目を落とす。縦横無尽に散らばるコマとカード、フィールドも自分で考えた自信作だ。だけど、彼のいた場所のコマが一カ所に整理されていて、はっとした。
「あ!!」
このゲームの落とし穴、抜け道、必勝法!!そうか!だから彼は開発者のボクに勝てたんだ!うああ…致命的なミスだ!またゲームルールも練り直しだああ…!!
「……でも」
でも、もし彼の助言なく、このゲームが誰かの目に留まって市場に流れていたら…?破綻したゲームに悪評がつき、ボクのゲームは信用を失う…。
ゲームルールを一度で読み解き、欠点まで見抜いた彼は……何者?
「レディースエンドジェントルマーン!エン!ボーイズアンドガールズ!!」
その時、ステージから今日の目玉の対戦ゲームとプレイヤーの紹介をするマイクパフォーマンスが聞こえた。
「まずチャレンジャーはこの方!叩き上げのスキルで予選を勝ち抜き、屍の山を築きあげてきた!決闘者、獏良了〜〜〜!!」
「ククク、邪魔するやつぁ、餌食だぜ…」
「そしてそして!ゲームショーではお馴染み!未だ全戦無敗!向かうところ敵なし!彼を破るものは現れるのか!チャンピオン!決闘王!武藤アテムーーー!!」
ぱっと切り替わる画面にボクは目と口を限界まで開いた。そこに映っていたのは、さ、さ、さ、さっきの…!!!
「レディーファイッ!!」
つまり、最強の矛って…最強の矛!?!?!全戦無敗!?チャンピオン!?
「はぁっ!はぁ…!ま、待って!待って!!」
ボクはたくさんの観客のごった返す中で、彼を捕まえた。
「よ、さっきの店番」
彼は何事もなかったかのようにボクを見た。
「き、キミ!チャンピオンって!決闘王って!」
問い詰めれば、思い出したように、ああさっきの、と呑気に答えた。
「あれは駄作だな。全部グラフィック頼みだ。戦略性が欠けてて面白みがないぜ」
お前、間違ってもあのクソゲー買うなよ、と釘を刺す彼に、思わずぽかんとしてしまう。
「どうして…」
「ん?ああ、美少女が好きなら止めないが」
「ち、違うよ!そうじゃなくて!」
どうしてボクのゲームには、ミスをハッキリ指摘しなかったの?
「ボクのゲーム?」
それに彼は目を見開いた。
「あれ作ったの、お前なのか?」
少し恥ずかしかったけど、ボクは頷いた。
「うちは小さなゲーム屋だから店番雇うお金もないし…」
ここに出展できたのだって奇跡みたいなもんだし…と、はぁ、とため息を吐くボク。それと対照的に、彼は、へぇ、と感心したような声を出した。
「可愛い顔して意外としっかりしてるんだな」
こっちは真剣なのに、馬鹿にしてる!?と凄めば、純粋に褒めてるんだぜ、となんの混ざりけもない言葉が返ってきた。
「あれだけのゲームを作って、売り込みに来て、たいした奴だぜ」
そりゃまぁ、じーちゃんが出無精で店が潰れそうって言うのもあるし、ボクがゲーム作るの好きって言うのもあって、その、成り行きでいろいろやってるけど…。
「ってそんな話はどうでもいいんだよ!なんでボクのゲームの指摘…」
「言っただろ、あれはいいゲームだ。クリエイターのお前は見つけた粗は許せないかもしれないが、世間はあのままでもいいって言うと思うぜ」
…それなら、なんであんな回りくどい言い方…。それに、彼は少し黙って、真剣な顔をして言った。
「お前のゲームが最強の盾になる可能性があるからだ」
え…?
「あの時一瞬、負けるかと思った」
お前のゲームにはオレを打ち負かす可能性がある。そう確信した。彼はそう言った。
「お前の作る最強のゲームに挑んでみたい」
そのために、お前自身にゲームの穴を見つけてもらいたかった。
「……」
…不思議だ。ボクの中で、ゲームはみんなで楽しく遊ぶもので、勝っても負けてももう一度、と言えるようなものだと思っていたし、それをコンセプトにしてきた。
だけど、今、この目の前の彼を、負かしたいと思ってしまった。
心の内に熱く燃えるものを感じる。
ゆるゆると漠然とした目標がたきつけられる感覚。忘れかけていた情熱に火が点る。いつもボクの背を押してくれた。あれは、誰だったっけ?