2015/3/20
Fri
22:14
夢に、夢に、1
話題:連載創作小説
頬が痛い。
成績が以前より悪くなったと言うだけで「気を抜いているせいだ」「お前は一体何をしに学校へ行っているのか」と言われ挙げ句「兄を見習え」と、俺の人生において重要だと思えない説教と鉄拳を喰らわされ、母さんが止めると矛先はそちらに向かい、なんの罪もないのに責められる。
毎度毎度出来のいい兄と比べられ、努力しても叱られ気を抜けば殴られる日々はそれなりに自我を確立し始めた中学生には耐えられない屈辱で地獄だった。
夜。大雨の降るなか傘も持って出ることなく家を飛び出して夢中で走った。
無意識のうちに照宗が住んでいる古いアパートへ足を運んでいた。
インターホンを鳴らすと照宗が無言でドアを開けて、少し驚いた様子で俺の顔を見た。
「木戸君、なにがあったんだよ」
「ごめん、ちょっと邪魔していいか」
「うん。タオル持ってくるから、ちょっと待ってて」
タオルと着替えを渡され、俺は玄関でそれに着替えて部屋に入った。
親父さんは残業なのか、いない。
勉強中だったらしく、テーブルに広げられた1学年上の参考書を片付けて照宗はココアとハロゲンヒーターを出してくれた。
「怒られたのか?」
「そんなところだな。毎度毎度……意味がわかんねぇ。クソジジイ、さっさと死ねばいいのに」
持ってきていた煙草を吸おうと思ったが雨に濡れてしまってダメだった。
仕方なく飲み頃になったココアに口をつける。
ニコチンが染みでて茶色くなった煙草をティッシュの上に綺麗に並べながら照宗は「おじさん、怖いもんね」と言った。
「お前んとこのおじさんが羨ましい。少なくとも殴ったり怒鳴ったりしないだろ」
「そうだけど、それは少なくとも僕がおかしいからだよ。きっと僕が普通だったら父さんだって怒鳴って殴っているかもしれない」
「想像できねぇ」
「僕は木戸君の家族が羨ましいよ。お兄さんもおばさんもいて、おじさんと喧嘩出来て。僕は、僕が普通でないせいで父さんを苦しめている気がしてならない。それに父さん、ここんところ仕事が忙しいから僕が起きているときに帰ってこないしマトモに話したの、ずっと前だ」
「ふぅん……」
隣の芝が青い、はこの事。
仮にもう一人いたらそう言うだろうか。
冷えた体を温めていたら段々と眠気がやって来る。
泊まれば、と提案されて遠慮なくそうさせてもらうことにした。
今日一日、あの親父と顔をあわせることはできそうにない。
きっと殴り返して激情に流されて殺してしまうかもしれないから。
誘う眠りに俺は従った。
[続]
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