別れる理由
ショートストーリー

「好きだから好きなんだよ。他に、理由はない」

そう言って君は笑ったけど、理由はやっぱり必要だったと思う。後付けでだってかまわないから。

だってそうじゃないと、何も、繋ぎ止めてはくれないでしょう?

「好きだから好きなんだよ」

君は、私の手を取り、言った。私は、素っ気なく、そう、とだけ返す。

「君は?」

君が同じ風に返ってくるだろう、と安心しきって笑顔。

「好きかどうかわからない。嫌いかもしれない、わ」

私が、視線をそらせながら言うと、君は、悲しそうに、そう、と言う。

「別れてみましょうか」

私は、淡々と告げた。

「嫌だよ好きなのに」

君がそう言うのは目に見えていたから、私は、精一杯、普段通りを装って、優しく微笑みながら言う。

「どこが好きなの?私の」
「…えっと」

言い淀んだ君に、私は、意地悪く畳み掛けた。

「わからないなら、別れても、問題ないでしょう?」
「…でも、好きなんだ」

苦し紛れの言い訳。それを封じ込めるように、私は、突き付ける。

「好きだからと言って、それが、付き合う理由には、ならないわ」

別れてみましょう、と続けようとしたところで、君は、乱暴に私を抱き締めた。

「別れよう、なんて言わないよね?君がいない明日なんて、考えられないよ、俺は」

少しばかり、湿っぽい声だった。ばか正直だなぁ、と思う。

「どこが好きかは、明確には答えられないけど、君が隣にいないなんて、そんなこと、考えたこともない」

あらそう、とからかってみる。それでも君は真剣な雰囲気のまま。

「きっと、君が居てくれることが好きで、だから君が好きなんだ。他の誰かじゃ駄目なんだ」

私は、くすりと笑ってしまった。

「バカね。そういうところ、好きよ。まさに、愚直なんだから」

振ってしまうつもりだったのに、結局、私だって君が好きなんだな、と刻み込まれただけだった。



end
話題:SS


13/04/12  
読了  


-エムブロ-