私が存在る理由
ショートストーリー

誰かが悪かった訳ではなくて、だから、きっと、私だけが、可笑しいのだろう、と思う。

《私が存在(あ)る理由(わけ)》

心の底から、愛した人がいた。その人は、私を、貪るように抱いた。

私は、それが、幸せだった。

求められている、と思えたから。

けれど。

唐突に別れは来た。

『お前といても俺は成長出来ない』

意味がわからなくて、ただただ、寂しくて、悲しかった。

そう言った矢先、その人は、言ったのだ。

『抱きたい』

理由なんか聞けなかった。知りたくもなかったし、聞けるはずもなかった。でも、断ることも出来なかった。

私は、それが、愛されていることだと思い込もうとした。思い込むことに、成功してしまった。私は、究極の嘘吐きだから。自分を騙した。

その人と身体を重ねる度に、自分が空っぽになっていくのを解っていて、抱かれた。空っぽなら、なおさら、寂しさも悲しさも感じずにいられた。

でも、空虚はまた、すぐに来た。

『彼女が出来たんだ』

幸せそうに笑ったその人を、私は、殺してしまいたいと思った。殺せやしないのに。

だから、私も他の人を探した。何度も。何人も。そして身体を重ねた。それが、愛だった。

空っぽでいい。可笑しくていい。身体を重ねるだけでいい。寂しさも悲しさも感じないから。愛されていられるから。それが、私が存在る理由だから。



end
話題:SS


13/04/05  
読了  


-エムブロ-