薬か毒か
ショートストーリー

「いたい」

何が、と訊ねた。答えなんて最初から、解っていた。

《薬か毒か》

「君の優しさが」

そう、と答えると彼女は、泣きながら笑った。

「優しさがないと辛いけれど、優しさに癒されるけれど、優しさがこんなにも、痛いなんて知らなかった」

優しくしない方が良い? 俺は訊ねる。またしても、答えは決まっていながら。

「いや。そんなの、耐えられない」

今度は、彼女は、顔をくしゃくしゃにして訴えた。それを見て、俺は、優越感に浸る。

俺なしでは、もう、なにも出来なくなったんだろう、と夢想する。そうであって欲しい、あるいは、そうであろう、と。

「俺の優しさは、薬にも毒にもなるらしいな。もう、中毒なんじゃないか?」

俺は、ニヤリと笑った。

「そうだよ。お願いだから、居なくならないでね、ずっとあたしに、優しくしてね」

俺は、彼女が求めるように、優しく彼女を抱き締めた。

「大丈夫。どこにもいかない、ずっと、お前だけに、優しくする」

俺が言うと、腕の中から、半分は泣きながら、半分は笑いながら、うん、と聞こえた。俺は、それをしっかりと聞いてから、彼女にキスをした。

彼女の顔は、まさに、中毒患者のそれだった。



end
話題:SS


12/12/18  
読了  


-エムブロ-