哲学っぽいこと
ショートストーリー

「こんな感情が、最初からなければ、こんなにも、悩んだり、苦しんだり、悲しんだり、困ったり、しなかっただろうに」

《哲学っぽいこと》

「なぜ神は、人間に、愛情を授けてしまったのだろうか」

ベッドの縁に座り込んで、かの有名な、考える人のポーズで、そいつは言った。

「何言ってんの?気持ち悪ぅ」

あたしは、ベッドに寝転んだまま、そいつの顔を見上げる。すると、丁度、目があった。

どちらからともなく、キスをした。

「気持ち悪いとか言うなよー」
「だって、気持ち悪いじゃん。急に哲学っぽいこと言い出してさ。頭良いわけでもないんだから、そういうの、全然、似合わないよ?」

あたしが淡々と言うと、少しムッとした顔をしてみせた。

「ごめん、ごめん。言い過ぎた」

あたしが言うと、そいつは、辛気臭い顔で、あたしを見下ろした。

「だってさ。どうしたら、嫌われないかな、とか、ちょっと機嫌悪そうだと、なんかしちゃったかな、とか思うんだよ。どうしたら、喜んでくれるかな、とか、笑うかな、とか、セックスのときだって、ちゃんと気持ち良いかな、無理させてないかな、って、凄く、考える。ハナちゃんのこと、愛してるから、気になるんだよ?」

あたしは、ぽんぽんと、そいつの頭を撫でた。

「わかった、わかった。あたしも、あんたのこと、愛してるから、多分、何しても嫌わないよ?機嫌悪いのは疲れてるとき。あんたと居れば、嬉しいし、あんたとのセックスは今までで最高だって、何回言った?少しは、あたしの言葉を信じなさい」

あたしは、そいつの首に手を回して、ベッドに引きずり込んで、乱暴にキスをした。

「神様はねぇ、自分以外の誰かのために、何かをしたい、と思わせるために、愛情を授けたの。愛情からしか、こんなに、優しい気持ちにはなれないのよ」

何の合図もなく、二人の言葉は重なった。

「「愛してる」」



end
話題:SS


12/12/18  
読了  


-エムブロ-