ディモルフォセカ
花言葉 series

「奴がねー、メールの返信くれないのよ」

ぼやくように、思い詰めたように、いったその子に、あたしは、あえて、斜め上をゆく言葉をかけた。

「そう。それで、あんた、不幸だと思うの?」
「そりゃ、幸せじゃないわよー」

ムスッとした顔のその子。あたしは、気にせず続ける。

「でも、良く考えてみなよ。あんたには、雨風しのげる家があるでしょ。この日本ですら、ホームレスがいるじゃん。

毎日、そこそこ美味しいご飯食べてるでしょ。ご飯食べれない人もいるのにね。

しかも、大学に通えてんの。学のない人なんて、大勢いる世の中で。

その上、好きな人がいて、その人と、奇跡的に両想いで、お付き合いしてんでしょ。

好きな人が出来る余裕があった上で、その人が、同じようにあんたのことを、好きっていうのは、ほんとに、何回も言うようだけど、奇跡よ、奇跡。

たまに、メールの返信が、来ないことくらい、ほんの、些細なことだと思わない?」

その子は、クスリと笑った。

「君はさ、ほんと、変なことばっかり、考えてるわね」
「良く言われるー」

その子が、少しだけ機嫌をなおした様だったから、あたしは、自虐的に笑った。

「あたしなんてねー、好きな人に、好きって言っても、信じてもらえないんだから、あんたは、すっごく幸せなの。だから、メールくらい、我慢しときな」
「メールは、我慢するわー。ていうか何、その人、酷くなあい?」

その子は、目を丸めた。あたしは、薄く笑って、首を横に振る。

「いーの、あたしは。あの人が幸せそうだからねー」
「君は、大人ね」

あたしは、ありがと、と笑った。

あたしの好きな人は、目の前で、どういたしましてと言って、きれいに笑っているんだけどね、と思っていると、携帯が鳴る。

「あ、奴だー」

どうでもよさそうに装いながら、とても、幸せそうに言うその子に、良かったね、と言いながら、あたしは、自分自身の、鳴らない携帯を見詰めた。

待受画面は、その子と撮ったプリクラ。

あんたが幸せそうなら、それで良いよ。あたしは、心の中で、そう呟いた。



end
話題:SS


12/12/10

追記  
読了  


-エムブロ-