後は、さよらだけ
ショートストーリー

「こういうのは、嫌だなあ」

彼女は、DVDを観終わった後、ぼそりと呟いた。

《後は、さよならだけ》

「そう? 僕は、アリだと思うよ」
「どうして?」

彼女は、平然を装って、でも何故か、泣きそうな顔で言う。
僕は、特に思い当たる節もなかったから、淡々と答えた。

「愛して、愛して止まない人の、幸せのためなら、僕は、身を引きたいと思うからね」

彼女は、そう、と悲しそうに笑った。

「どうしたの?」

僕は、訳が解らなくなって、少し苦しくなって、誤魔化すように、彼女を抱きしめた。

「どっか、いっちゃうのかな、って、思ったら、寂しくて、さ」

僕は、驚いてしまって、それからすぐに、可笑しくなって、少し笑ってしまった。そんな僕に、腕の中の彼女は、むっとした顔をむける。

「どこにも、いかないよ?」

僕が言うと、彼女は、でも、と口をつぐんだ。僕は、彼女の頭を軽く撫でながら、笑った。

「君が、どこにも行って欲しくないって、思ってくれてるうちは、どこにいけるって言うの?」

僕は、静かに、彼女にキスをした。

「じゃあ、あたしの前から、勝手にいなくならないで」
「うん、もちろん」
「…絶対?」
「絶対。僕はさ、愛して、愛して止まない人の為なら、何でも、してあげたいと思ってるんだよね。悲しませるなんて、もってのほかだと思うよ」
「うん」
「だから、君が嫌なら、僕は、君に、さよならなんて、言わないよ」

彼女は、泣きながら笑っていた。


end
話題:SS




12/11/05  
読了  


-エムブロ-