「あのね、あたし、すごくすごくすごく、好きな人ができたの!」
「へー、どんな人?」
俺は、平然を装って、そう訊ねた。本当は、聞きたくなんかない。でも、俺は、ユミのいい友達だから。そういう立場でしか、ユミの傍に居る術がないのなら、辛くても、我慢する。
「優しい人!」
「そう。それで?」
「でねー、んーと、そうだなぁ、結構、カッコいいし、あたしの話を、よく聞いてくれるし、素敵な人なんだっ!」
「いい人なんだな」
「うんっ、もーね、ちょー好き!」
そんなに、キラキラした笑顔で、俺を見詰めないでくれ。好きだなんて、言わないでくれ。
俺が、そう言われているような、錯覚に陥ってしまうじゃないか。
「どこで知り合ったんだ?」
そう訊くと、ユミは、少し言い難そうにした。
「んー、んとねー。昔からの、知り合いなんだー」
「へぇ。そんな奴、居たんだ」
何で、俺じゃ無いんだろうな、と思った。
「うん。その人は、結構、あたしのこと、好いててくれてたみたいで…」
「ふぅん。コクった?」
こいつ、モテるからなぁ、と切なくなった。早くに、手を出してしまえば、よかったのか?
違うだろう。
友達でもいいから、傍にいたいと思ったのは、俺だったんだ。
「まだ、なんだけどね」
「早くに、言った方が良いぞ? 相手に彼女が出来てからじゃ、遅いんだしさ」
自分自身の教訓を、そのまま、ユミに言った。
「んー、うん。そう、だね」
「ああ」
「あのね、マサ。あたしの好きな人、マサなんだ…」
ユミは、言ってから、俯いた。
冗談はよせよ、と、言ってしまうことも出来た。
でも、ユミが、真剣なのが、手に取るように、わかってしまったから。
「ありがとな。俺もずっと、ユミのこと、好きだった」
弾かれたように、顔を上げたユミは、泣きそうだった。
一瞬、躊躇って、それから、ユミを抱き締める。
「好きだ、ユミ。付き合ってくれるか?」
「…うん」
抱き締めたユミの体は、小さくて、守りたいと、心のそこから、思った。
end
話題:SS
12/08/26