見下ろした風景
ショートストーリー

その日、彼女は、何と無く、気分が落ち込んでいるようだった。

「何、浮かない顔してんの?」

そう訊くと、彼女は、苦笑いで答えた。

「んー、なんか、ユウウツ」

そんな顔をしている彼女を見ていたくなくて、ドライブに誘うと、彼女は、しぶしぶ、といった風に、重い腰をあげた。

車に乗ってすぐに、彼女が好きだと言っていた音楽をかける。

「あ、これ」
「好きって言ってたからなー」
「でも、こういうの、好きじゃないんでしょ?」

確かに、あまり聞かないタイプの音楽ではあった。でも、食わず嫌いならぬ、聞かず嫌いだったのだろう。あるいは、彼女が、好んでいたからか。

「聞いてみたら、結構、良かったしね」
「そっか」

彼女は、つい、という風に笑った。

しばらく、適当に走らせてから、郊外の小高い丘を目指した。そこから見える風景は、気に入っている。

「はい、ついたよ」
「うわー、キレイ…」

彼女は、車から降り、景色を見渡すと、うっとりと、呟いた。側の自販機で、ジュースを買う。

「飲む?」
「あ、ありがとっ」

手渡すと、彼女は、にこやかに笑った。そう、この顔だ。そんな顔が見られたから、満足して、俺も、景色に目をやる。いつ見ても、綺麗だ、と思った。

ゆっくり、日が沈み始めたので、帰ることにした。車の中で、彼女は、照れたように笑いながら言った。

「ね、ありがと」
「いえいえ。ちょっとでも、元気になりましたか?」

少し、からかう風に、言うと、彼女も、それに乗っかって返してくれた。

「あはは、とっても元気になりましたよ」

少し間をおいて、良かった、と言うと、彼女は、今度は、顔をくしゃっとさせて、ありがとね、と笑った。

その笑顔は、他のどんなものより、綺麗だと思った。



end
話題:SS


12/08/27  
読了  


-エムブロ-