「寂しい、って、言って良い相手だって、わかってるのよねー。でもさ、言えないよねー、あはは」
佳世子は、さも、どうでも良さそうに、笑った。けれど、あたしは知っている。佳世子がそう言うときは、たいてい、どうでも良いという訳ではないことを。
「佳世子、寂しいんだ」
「たまに、ねー」
肩をすくめた佳世子は、やはり、寂しげに笑った。
「言って逃げるような男なら、やめときなよ。佳世が、寂しがり屋なのは、どうしようもないじゃん」
あたしは、そこで一呼吸おく。あたしにしとけば、なんて、言える訳は、ないのだから。
「うーん、うん。そうなんだけどねー。好きになりすぎると、どうも、歯止めがきかなくて、やなのよー。あーあ、楓が男だったら良かったのに。なんてね、あは」
佳世子は、悪気なく、そして、本心から、そう言っているのだと、あたしは、わかってしまう。
「残念ながら、あたしは、女で、ちゃーんと、彼氏もいますからー」
「うっせー」
佳世子は、少し、元気を取り戻したようで、楽しそうに軽口を叩いた。
そう。それで良いのだ。あたしの淡い片想いは、一生、叶わなくて良い。だから、佳世子には、幸せになって欲しい。
「あはは。早く、彼氏くんに連絡入れなよ。 きっと、来てくれるって」
佳世子は、少し迷ってから、あたしに訊ねた。
「楓は、どーすんの?」
「あたしも、彼氏呼ぶから、大丈夫」
佳世子に、余計な心配をかけないように、あたしも、軽く言う。彼なら、来てくれるだろう、とは、わかっていたから。
「んー、なら、電話してみよう、かな」
「うん、それが良い」
あたしは、笑う。佳世子は、少し緊張した顔で電話を掛けた。
「あ、もしもし? あのさ、今から、あえる?」
『 』
「んー、別に、何でもないんだけど、顔みたいなぁ、なんて?」
『 』
「いつものファミレスにいるよ」
『 』
「うん、ありがと」
電話を終えた佳世子は、一際、可愛らしく笑っていた。
「よかったね」
あたしも、満面の笑みを、返した。
「楓のおかげ!」
「いえいえ。さて、あたしも、彼氏くん呼びますかー」
「うんっ」
佳世子は、楽しそうに笑う。その笑顔が、続くように、と願うばかりだった。
end
話題:SS
12/08/24