痛くして
ショートストーリー

虐げられることこそが、正しいのだと、あたしは、時折、錯覚する。そういうときは、決まってこう言うのだ。

「痛くして」

そう言えば彼は、まるで、あたしを犯すかのように抱く。乱暴に扱って、縛り付けたり、叩いたり、首を絞めたり。

別に、それが快感な訳ではないけれど、でも、それが正しいのだと感じる。

そういうセックスは、なかなか、終わったことに気付けない。というのも、たいてい、途中であたしが、落ちるからだ。

彼が、壊れ物でも扱うかのように、頬を撫でるその手つきで、あたしは、覚醒する。

「ごめんね」

あたしが言うと、彼は、笑うのだ。謝るなら痛くしてとか言うな、と。

彼は、わかっているのだ。

あたしが、あたしのなかで、処理しきれないことがあると、そういう風に、言うのだという事を。

「愛してるよ」

ぼんやりしていると、彼は言う。

きっと、あたしは、この言葉を、待っているのだろう、と、理解もしている。異常なセックスが、遠回りだとも。

それでも、虐げられることこそが、正しいのだと、思ってしまうことを、やめられない。

いつかは、素直になれるのだろうか、とか、いつかは、異常なセックスをやめられるのだろうか、とか、考えてみても、苦しくなるだけだから、考えるのは、やめた。

ただ、うすぼんやりと。

痛みが恋しくなっただけだった。



end
話題:SS


12/08/23  
読了  


-エムブロ-