ゲーム
ショートストーリー

所詮、人生なんてゲームみたいなものなのよ。

《ゲーム》

「ごめんなさい」

絞り出すように、別れましょ、と言う。瞳を潤ませて。そうすれば、ほら。

「…うん。ごめんな、俺が不甲斐ないばっかりに」
「ごめんね…」

ありがとう。楽しかったわ。そんな風に続けて、店を出た。

楽しかったわよ、それなりに。そう、思う。

仕事もよくしていたし、お金を持っていたし、そこそこかっこよくもあった。でも、胡座をかいて、楽をしようとしていた。

よく見せようとする、努力が少なかったから、ダメだった。

自然体が一番?

そんな訳ないじゃない。努力して、報われないのが、嫌だっただけでしょ。努力することを、知らなかっただけでしょ。

そんな、甘えたヤツに、あたしみたいに、綺麗で良くできた女が付いていく訳ないじゃない。

今度は、老紳士みたいな人と、付き合ってみようかしら。もしくは、うんと子供みたいな人も、ありかもしれない。

そう思って、帰宅する道すがら、電話がかかってきた。車を路肩にとめて、電話に出る。

『今、大丈夫か?』
「大丈夫よ」
『すぐ、社に戻れるか?』
「…わかったわ」

仕事、か。こんな日は、がっつりと、仕事をするのも、悪くない。

そこそこ、キャリアを積んだところだし、そろそろ、いい人と結婚しよう。それで、子供をつくるのだ。〇〇ちゃんのママ、キレイだねー、なんて、言われたら、幸せだろう。

コンビニに寄って、野菜ジュースと煙草を買った。煙草、やめようかしら、と思う。まあ、そのうち。

車が信号に引っ掛かる。開けていた窓からの風が止み、ふと思った。

幸せになるために、階段を昇るように、仕事と恋愛とを沢山してきた。

それで、いまのあたしに、何があるのだろう。可愛いげのないキャリアと、無駄に男のあしらいが上手くなった。物悲しく感じる。

ゲームとしては、レベルアップは十分に済んだ、というところか。なら、見せ場はこれから、と、思い直した。

まだ、焦らなくて良いじゃない。楽しまなきゃ、損だもの。あたしは、あたしの人生を、楽しみ尽くすんだから。

信号が、青く変わる。アクセルを踏み込む前に、アップテンポの曲を流した。

久し振りに口ずさんだメロディーは、あたしに、無邪気に楽しめよ、と、訴えていた気がした。



end
話題:SS


12/08/10  
読了  


-エムブロ-