突き刺さるはセミの鳴き声 零
突き刺さるはセミの鳴き声

僕に、散り逝く桜が美しいと言ったのは、祖母だったと思う。あの日から、僕は、終わり逝くものに、心を奪われてしまった。

《突き刺さるはセミの鳴き声 零》

今年の夏は、セミの声が、自棄に美しく聴こえた。テレビで、地に上がったセミの寿命は、七日間ほどだと、聞いたからだろう。

僕はセミを捕まえて、デスクに飾ってみた。最初のうちは、籠の中で、元気よく、鳴いていた。

そして、三日目だったろうか。

セミは、ころりと、死んでしまった。僕は、その死骸を棄てた。死んでしまったモノには、これっぽっちも、興味はなかった。

「センセー! 何棄ててんの?」
「あぁ、橘さんですか。セミですよ」
「授業の教材かなんか?」
「そうですよ」

人間なら。死ぬ間際で、長らえさせることは、容易いだろう。

僕は、その刹那、人をコレクションすることを決めた。どうせなら、子供でも大人でもない高校生の、オスよりはメスの方が、美しいだろう。

こうして、僕のコレクションが、始まった。



了 話題:SS


12/07/31  
読了  


-エムブロ-